75歳以上のスタチン服用

75歳以上のスタチン服用、必要? 脂質異常症の治療

他の持病も考慮 主治医が判断

血中のLDLコレステロールが増えて、心筋梗塞(こうそく)などを招きやすくなる脂質異常症 

一般的にはスタチンという種類の薬でLDLを下げるのが治療の柱だが、75歳以上の高齢者にもメリットがあるかについて十分なデータはない。

どんな人に、どんな対応が望ましいのか。

 

横浜市の女性(85)は最近の検査で、LDLの値が180ほどだった。

脂質異常の基準とされる「140以上」と比べてもかなり高い。

でも女性は、LDLを下げる薬スタチンをのんではいない。

 

女性は血圧も高く、骨粗しょう症にもかかっていて、降圧剤や骨が弱るのを抑える薬など7種類をのんでいる。

主治医の開業医は「スタチンを加えると、LDLが下がる利益よりも、副作用やのみ間違いによる事

故といった害の方が大きい」と話す。

私的コメント;

すでに7種類もの薬剤を服用(ポリファーマシー)しているわけですから、この説明はいかがでしょうか。

もし7種類はOKで8種類はダメということなら、今の7種類の薬剤の優先順位を再検討して最下位の薬剤をスタチンに置き換える方法もあります。

スタチン自体は、以前は眠前服用といった間違えやすい服用法でしたが、最近のスタチンは朝食後1回という間違えにくい服薬法が一般的です。

むしろ骨粗しょう症の薬剤の中に、「起床直後」といった服用法が難しいのがあります。

「LDLが下がる利益よりも、副作用やのみ間違いによる事故といった害の方が大きい」という言葉はあくまでも、その先生の「私見」であって、関連学会や専門医の間で共有された考えではありませ

ん。

 

LDLは増えすぎると動脈硬化の原因になり、心筋梗塞などのリスクを高める。

国内の10の研究をまとめて解析した結果だと、コレステロールが高い70~89歳の男性が心筋梗塞などの「冠動脈疾患」で亡くなるリスクは低い人の2.2倍だった。

高齢者でも、脂質異常を放置するのはよくないようだ。

 

74歳までの人は、まず運動や食事の改善を試み、うまくいかない場合はそれぞれの状態に応じてスタチンを中心とした薬を使うのが一般的だ。

一方、75歳以上で過去に冠動脈疾患を起こしたことのない人では、スタチンをのんでも予防に役立つという十分なデータがない。

 

日本老年医学会が昨秋に示した、高齢の脂質異常症を対象とした診療ガイドラインは、こうした人にスタチンを使うか「主治医の判断」としている。

75歳以上の高齢者はとりわけ、複数の病気をかかえがちだ。

このためどの病気への治療を優先するべきかを考える必要が出てくる。

日本人の冠動脈疾患は、脂質異常よりも喫煙や高血圧のほうが原因となりやすいとされ、禁煙や高血圧の治療をより重視することが多い。

不整脈なども生命の危険に直結することがあるため、その治療が優先されることもある。

 

スタチンは副作用が比較的少ないといわれるが、一緒に使うほかの薬の作用を強めることがあるので注意がいる。

たくさんの薬を少しでも減らそうとするとき、まずスタチンを控える例が少なくない。

 

ただ、ずっと以前からスタチンをのんでいた人は、75歳になってもそのまま続けるのが原則だ。

甲状腺機能が低いとLDLが増えやすいので、治療を始める前に調べることがすすめられる。

 

一部の既往症 再発予防に期待

冠動脈疾患になったことがある人では、少し話が違う。

 

命にもかかわる心筋梗塞などの再発を避ける「二次予防」の意味では、スタチンによる効果が期待できるとガイドラインは述べる。

狭心症で血管を広げる治療を受けた場合もこの対象に含まれる。

 

二次予防の場合、LDLは原則100未満に下げることがすすめられる。

でも高齢者はどこまで下げるべきかの十分なデータがない。

ガイドラインづくりの中心になった国立長寿医療研究センターの荒井秀典院長は「指示通りにスタチンをのみ続けているなら100を多少上回ってもいいのでは。ただ、糖尿病などを伴う場合は100未満を保つほうがいい」という。私的コメント;

これもあくまでは、この先生の個人的な見解です。

作成されたガイドラインに則って説明するべき立場なわけですから、私見は述べられない方がよいのではないかと思います。

 

いつまでのみ続けるべきか。

この判断材料も乏しい。

 

「おおむね85歳くらいで続けるべきかを考えてもいい」と荒井院長は述べる。

脳梗塞を一度起こした場合はどうか。

これも今のところはっきりした根拠はないが、少なくとも一部の脳梗塞については、スタチンが再発予防に役立つ可能性は高い。

 

脳梗塞のうち、心筋梗塞と同じように太めの血管がつまる「アテローム血栓脳梗塞」になった人にスタチンによる二次予防効果があったとする研究がある。

ただし高齢者での検討は不足しているため、ガイドラインで推奨はしていない。

 

治療中でも栄養不足に注意

コレステロールは細胞やホルモンの材料にもなる栄養成分で、体に欠かせない。

脂質異常症の治療では一般に、LDLを下げる目的で摂取エネルギーの制限がすすめられるが、高齢者では栄養不足がもとで心身の活力が落ちる「フレイル」に陥ってしまう恐れがある。

治療中でも、蛋白質などはしっかりとることがすすめられる。

国内のある住民対象の研究によれば、90歳や100歳といった超高齢者を含む健康な高齢者でみると、年齢が高いほどコレステロールの平均値が低くなっていた。

 

また、在宅医療を受けている認知症の女性について調べると、脂質異常症に該当する人の方がそうでない人より、日常生活を自分でできる度合いが高かったという。

コレステロール値が高い人の方が栄養状態がよく、自立度につながっている可能性があるという。

私的コメント;

こういった比較はスタチンを服用していない住民対象で比較することが必要です。

 

とりわけ超高齢の人では、認知症やフレイルなども考慮して、どれくらいが望ましいのかを年代ごとに考えるべきだ、と指摘する専門家もいる。

そのためには、いまの基準値を見直していく必要がある。

 

90代ともなれば、もう脂質異常症の治療は必要ないという見方がある一方、LDLがかなり高く、ほかの健康状態に問題がなければ、ゆるやかにLDLを下げることに意味はあるとの考えもある。

私的コメント;

スタチンには、最初に開発されて発売となったスタンダードスタチンと、その後に発売となったストロングスタチンというの2つのグループがあります

医師が高齢者に処方する際には、そのあたりの配慮が必要となります。

 

ふさわしい対処法は、研究が進むにつれて今後も変わっていく可能性がある。

 

75歳以上の脂質異常症への対応

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/618

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2018.4.4

 

<関連サイト> 

医療関係者向きでいささか難解ですが、現在の医療提供者側の「スタチンと高齢者」に関する最新の考え方がわかります。

記事の中の医師のコメントより、より客観的です。

 

脂質異常症GL改訂、超高リスクはLDL55未満も

http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/80091237.html

・強く勧められる(Is recommended or is indicated)クラスIの推奨の新設は2つ。
1つが「75歳以下の一次予防の高齢者に対する、リスクに応じたスタチン投与」。
これまで、高齢者に対するスタチン治療でクラスIの推奨は、二次予防だけだった。

 

・もう1つは糖尿病合併例に対するもので、「超高リスクにある2型糖尿病では、LDL-Cを未治療から50%以下にするか、55mg/dL未満にする。
高リスクの2型糖尿病では、LDL-Cを未治療から50%以下にするか、70mg/dL未満にする。
高リスクまたは超高リスクの状態にある1型糖尿病にはスタチンを推奨する」とした。

 

 

75歳以上でのスタチン中止はNG?

http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/79938406.html

・心血管疾患(CVD)の初発予防目的でスタチン系薬を使用していた75歳以上の高齢者が使用を中止すると、継続していた場合と比べて心血管イベントのリスクが上昇することが、約12万例を対象としたフランスの住民コホート研究で示された。

 

・この研究グループは、脂質値が高いため日常的にスタチン系薬を使用している高齢者に対し、自己判断で使用を中止しないよう助言している。

 

エゼチミブの上乗せ効果、高齢の心疾患にも

http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/79818686.html

・75歳以上の高齢者において、エゼチミブ上乗せはスタチン単独に比べて心血管イベント抑制効果が大きかったことをJAMA Cardiolに発表した。

 

スタチン不要の高齢者を明らかに

http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/79724136.html

・負のリスクマーカーに対してより大きな注意を払うことは「高齢者における1次予防としての薬物療法の、潜在的な過剰使用を制限するための鍵となる可能性がある。

負のリスクマーカー・・・

CACスコアが0

CACスコアが10以下

検出可能な頸動脈プラークなし

家族歴なし

足関節上腕血圧比が正常値

頸動脈内膜中膜肥厚、アポリポ蛋白B、ガレクチン-3、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)、リポ蛋白(a)、脳性Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)、トランスフェリンの検査結果が25パーセンタイル値未満

アポリポ蛋白A1が75パーセンタイル値超

 

高齢者を含む全年齢層でスタチンは有益

http://blog.livedoor.jp/cardiology_reed/archives/78563993.html

・スタチン療法は年齢にかかわらず、主要心血管イベントを有意に低減することが示された。

 

・閉塞性の心血管イベントのリスクが高い高齢者に対し、スタチン療法を行うことを支持するエビデンスが得られた。

(<関連サイト>に「スタチンと高齢者」の記述があります)