膵臓がん、血液で早期発見
脂質など解析、見えない難敵攻略 検査技術相次ぐ
がんの中でも命を落としやすい膵臓がんを、血液検査でいち早く見つける技術を山梨大学などが相次いで開発した。
膵臓がんは診断から5年後に生きている割合(5年生存率)が10%未満と、がん平均の62%を大きく下回る。
症状がほとんどないまま病魔が進行し、気づいたときには治療が難しい。
亡くなった人はここ10年間で5割も増えた。
難敵に挑むには、早期発見の技術が鍵を握る。形勢不利の闘いに終止符を打てるのか今後の研究にかかっている。
膵臓がんとの死闘は人類が劣勢だ。
国立がん研究センターによると、日本では1年間に約3万6千人(2014年)が患うが、亡くなる人もほぼ同数の年間約3万4千人(17年)。
5年生存率は大腸がんの70%台、胃がんの60%台に対し、膵臓がんは10%未満だ。
静かに体をむしばむだけに怖さが際立つ。
膵臓は胃の後ろにあり、別の組織で覆われている。腹痛や黄疸でがんに気づいたときには、多くは別の臓器に転移しているか手術ができないくらい悪化している。
この「沈黙のがん」を攻略するメッセージが血液にあった。
膵臓からは血液へ様々な成分が出ている。
がんになると、種類や量が変わるのだ。
山梨大学のチームは血液の脂質を質量分析の手法でふるいにかけ、人工知能(AI)で解析した。
膵臓がんと、前段階の「膵嚢胞」や糖尿病の患者など500人強を調べ、9割強の精度でがん患者を見分けた。
21年度にも臨床試験(治験)をしたい、という。
旭川医科大学と札幌東徳洲会病院の研究チームは、膵臓がんから血液へ漏れ出たDNAの変化を解析した。
約170人の患者と健康な人を調べ、8割超の精度で違いを見極めた。
3年後に治験や先進医療を目指す。
70歳以上の1~2割が患う膵嚢胞からできるがんを安く早期に発見したい、という。
国立がん研究センター研究所や神戸大学の研究チームは、血液中にある「アポA2アイソフォーム」というたんぱく質に注目。
血液検査でたんぱく質が減っていた54人のうち、18人(33%)が膵臓がんや前段階の病気だった。
北海道などでの臨床研究で19年度末までに1万人以上を検査する。
データの蓄積からがんの兆候が分かれば「リスクが高い人を絞り込める」と言う。
コンピューター断層撮影装置(CT)を使う健診などで偶然見つかり、命拾いした患者もいる。
動脈まで進行すると、もはや手術ができるとは限らない。
ただ、膵臓は抗がん剤が届きにくく、がんをたたく免疫細胞も行く手を阻まれ、がん免疫薬などでも治療が難しい。
これまで早期発見の試みがなかったわけではない。
超音波で何らかの異変などの予兆を探る方法もあるが、診断は膵臓がん全体の1~2割にとどまるとみられる。
血液成分を調べても、がんを見分けにくかった。
人類とがんとの闘いは長い歴史がある。
19世紀に麻酔薬が登場し、様々ながんを外科手術で切除できるようになった。20世紀に入ると放射線治療が始まり、1960年代には抗がん剤が幾つも登場した。
それでも肺と大腸、胃がんに続いて4番目に死亡者数が多い膵臓がんは、なお「不治の病」の印象が強い。
患者が増加しているのも気がかりだ。
がんの発生率が高まる高齢者や、食習慣の欧米化などで膵臓がんのリスクを高める糖尿病患者が増えているためだ。
血液を調べて膵臓がんを見つける研究は米国でも盛んだ。
ダナ・ファーバーがん研究所やジョンズ・ホプキンズ大学、ベンチャー企業などが血液中のDNAの特徴からがんを識別する技術を開発した。
国内では、金沢大発ベンチャーのキュービクス(石川県)が血液中のRNAの量の変化などを調べ、膵臓がんを含む消化器系がんの有無を判定する検査技術を持つ。
より低コストで高精度な技術を開発すれば、日本勢も対抗できる。
欧米と日本では人種が違い、膵臓がんの目印に使えるたんぱく質の種類や遺伝子の変化も異なる可能性がある。
日本が独自に研究を進める利点もあるという。
今後は、新しい技術をいかに普及させていくかが試される。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.10.26
<関連サイト>
膵臓がんの怖さ