ミトコンドリア 機能低下が病気の引き金に 

ミトコンドリア、若さの源  機能低下、病気の引き金に 

あらゆる生物の細胞にはエネルギー工場として働く器官「ミトコンドリア」がある。

起源や遺伝の仕組みに謎が多く、生物学の研究対象になっている。

ところが最近はミトコンドリアの機能が低下すると様々な病気を起こすことが判明し、医療との関わりが深まってきた。

小児の難病で2019年に国内初の承認薬が登場し、注目度が一気に高まっている。

 

教科書で細胞の図解をみると、生物のエネルギーであるATP(アデノシン三リン酸)を合成するミトコンドリアが必ず描かれている。

細胞にもよるが1つに数百個ある。

約20億年前、誕生間もない細胞に取り込まれた細菌が由来とされ、後の動植物の進化に欠かせない存在になったと考えられている。

 

多くの生物で母親のミトコンドリアだけが子孫に受け継がれる。

父親のミトコンドリアは受精卵の中で排除される仕組みがある。

なぜそうなっているかは分かっていない。

ミトコンドリアは基礎研究の対象として多くの科学者をひき付けてきた。

しかし最近は脳や神経の病気や糖尿病、老化などと深く関係している証拠が相次いで明らかになり、研究の様相が様変わりしている。

学会の参加者数が増えて、ちょっとしたブームのような感じになっている。

ミトコンドリアの働きと加齢に伴う変化の関係に焦点を当てる研究者がいる。

注目する対象は、ミトコンドリアの膜にある「MITOL」というたんぱく質だ。

MITOLはミトコンドリアの融合や分裂を調節し、うまく働かないとエネルギーの生産効率が下がる。

実際にマウスで加齢とともに心臓や脳、皮膚などでこのたんぱく質の量が減っていた。

たんぱく質の働きをよくする成分を長期間与えると、抜け毛やしわが軽減されることも19年に発見された。

アンチエイジングの有望な方法が見つかるかもしれないと関心を寄せる企業も出てきた。

細胞の中の様子を立体的にとらえる独自の観察技術を駆使し、神経細胞の情報伝達に異常があると、ミトコンドリアの体積や数などにも変化が出る現象も見つかった。

ミトコンドリアは細胞の中を動き回り、分裂や融合を繰り返す。

神経変性疾患との関係を調べる研究も進行中だ。

パーキンソン病や糖尿病など多くの病気との関わりが分かってきた。

 

ミトコンドリアに薬を届ける研究も進行中だ。

二重の膜に阻まれていて送達は難しかったが、ミトコンドリアの膜に融合して薬を放出するカプセルが開発された。

がんをもつマウスにミトコンドリアを弱らせる物質を投与すると、従来の抗がん剤に耐性をもつがんを小さくする成果も18年に出た。

クラウドファンディングなどで資金を募り実用化を目指す。

 

細胞の核にはミトコンドリアを制御する遺伝子があり、ミトコンドリアも独自の遺伝子をもつ。

これらの異常が原因で発症する病気は「ミトコンドリア病」と呼ばれ、国の指定難病になっている。

原因遺伝子の発見は11年ごろから相次ぎ、18年5月までに309個が見つかった。

 

不明な点が多い器官だけに研究には課題がつきまとう。

核とミトコンドリアの両方に遺伝子があり、どちらの遺伝子が病気に関わっているのか見分ける必要がある。

核かミトコンドリアのいずれかだけが違う遺伝子をもつ動物や細胞を準備する必要があり手間がかかる。

核の遺伝子の改変はゲノム編集技術が登場し簡単にできる。

しかしマウスや人でミトコンドリア遺伝子に対する適した運び役がなく、現在は偶然に変異を起こした細胞をもとにモデル動物を作る方法しかない。

ミトコンドリア遺伝子に異常をもつマウスの作製に力を入れる某大学の教授は「数年かかり根気のいる作業だ」と明かす。

 

体のまひや視覚異常などを起こすミトコンドリア病に対し、アミノ酸タウリンを大量投与する治療法が19年に承認された。

ミトコンドリア病治療薬の第1号だ。

長い基礎研究があって有効性を見いだした好例ともいえる。

ミトコンドリアを詳しく調べ、DDSやゲノム編集などの技術革新が実現すれば、関連する多

 

<関連サイト>

ミトコンドリア 細胞内のエネルギー工場

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/899

 

参考・引用 一部改変

日経新聞・朝刊 20202.23