iPS移植、実用化へ着々 5例目、京大が血小板輸血

iPS移植、実用化へ着々 5例目、京大が血小板輸血 安全性→効果確かめる段階へ

様々な細胞になれるiPS細胞(人工多能幹細胞)から、病気やケガで失われた細胞や組織をつくりだし、患者に移植する再生医療が、少しずつ実用化に近づいている。

京都大の研究チームが3月25日、移植5例目となる血小板の輸血を発表した。今後は企業の動きも注目される。

 

「皮膚からつくった(網膜組織の)細胞が役割を果たしている」。理化学研究所などのチームがiPS細胞からつくった網膜の組織を目の難病「加齢黄斑変性症」の患者に世界で初めて移植した手術から5年余り。

 

移植した細胞は今もその場にとどまっている。

移植するまでは定期的な注射で視力を維持していたが、移植後は注射なしで視力を維持できている。

 

2014年の網膜の後、18年には京大チームが神経細胞をつくり、「パーキンソン病」の患者の脳に移植した。

19年には大阪大のチームが目の角膜の細胞をつくって「角膜上皮幹細胞疲弊症」の患者に、20年にも阪大のチームが心臓の筋肉の細胞を、「虚血性心疾患」の心不全患者に移植した。

京大チームは血を止める血小板をつくり、通常の輸血では拒絶反応を起こしてしまう「再生不良性貧血」の患者1人に移植した。

 

今後も、さまざまな移植の計画が控えている。

慶応大のチームによる「脊髄損傷」、京大のチームによる「ひざ関節軟骨損傷」の臨床研究の計画も、すでに国から了承されており、早ければ20年中に移植が始まる可能性もある。

 

心臓の筋肉の細胞を患者に移植した阪大の澤芳樹教授は、「日本の再生医療は世界より数年くらい先に進んだ位置にいる。日本から安全で優れた医療を発信するチャンスだ」と話す。

 

これまでの5例は、いずれもiPS細胞からつくった細胞が、がん細胞にならないかなどを調べる安全性の確認が主な目的だった。

今のところ、細胞のがん化や、大きな副作用などの問題は報告されていない。今後は、治療の有効性を確かめる段階に入っていく。

 

■ 質担保や費用、普及へのカギ

iPS細胞を使った再生医療を誰もが受けられるようになるためには、企業による治験を経て、つくった細胞が医薬品として認められなければならない。

 

目の網膜組織を使った治験をめざす大日本住友製薬大阪市)とヘリオス(東京都)、血小板では日米での治験を計画するメガカリオン(京都市)など製薬企業やベンチャー企業が取り組んでいる。

だが、いずれも当初掲げていた目標時期は過ぎており、スケジュールを修正している。

 

医薬品には均一な品質が求められるが、iPS細胞は遺伝子の変異が起きることがある。

がんに関連する遺伝子以外の変異があってもよいか、といった基準がはっきりせず、製品化のハードルとなっている。

 

また、こうした安全性の評価には費用もかさむ。

現状では、大学などの研究機関がiPS細胞をつくって目的の細胞に変えて移植するまでに、数千万円かかる。

実用化にたどり着いても、治療費が高額になることも予想され、どれほどの効果なら社会が受け入れるかといった議論が出てくる可能性がある。

 

iPS細胞をつくってノーベル賞を受賞した京大の山中伸哉教授は、iPS細胞を使った再生医療の現在地について、趣味のマラソンに例え、「ちょうど折り返しに来たところ」と表現している。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.4.2

 

関連サイト

iPS細胞を使った主な研究

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/959