PCR・抗体・・・ 4種類ある病原体の検査方法、違いは?
新型コロナウイルスに感染しているかを調べるPCR検査や、感染歴がわかる抗体検査という言葉を耳にするようになった。
検査にはどんな種類があり、どうして目に見えないほど小さな病原体の感染がわかるのだろうか。
病原体検査は大きく「顕微鏡での観察」「抗原検査」「抗体検査」「遺伝子検査」の4種類に分けられる。
それぞれ何を検出するのかが違い、得手不得手がある。
最もシンプルなのが「顕微鏡での観察」で、顕微鏡を使って病原体そのものを直接見る。
病原体が含まれる患者のたんや尿などを色素で染め、病原体の色や形の違いで種類を確かめる。
ただ、観察できる病原体の大きさに限界がある。
いわゆる「ばい菌」と呼ばれる細菌は代表格の大腸菌で体長1マイクロメートル(1千分の1ミリ)ほど。
新型コロナのようなウイルスは一般的にその10分の1以下とさらに小さく、レンズを組み合わせて拡大する光学顕微鏡では見られない。
ウイルスを含めた病原体への感染を間接的に知る方法が「抗原検査」と「抗体検査」だ。
どちらも病原体を排除するための免疫反応を応用したもので、双子のような存在だ。
病原体が体内に入ると「抗体」というたんぱく質がつくられ、病原体にくっついて排除の目印になる。
抗体がくっつく病原体の一部分は「抗原」と呼ばれる。
抗原検査は、患者のたんや尿に「抗原」があるかどうかを調べるもので、インフルエンザの簡易検査で使われている。
一方の抗体検査は、患者の血液中の「抗体」の有無を調べる。
どちらも目的の抗原や抗体だけを捕まえるたんぱく質を人工的につくり、このたんぱく質に化学反応で色をつけるなどして検出する。
ウイルスのように病原体が小さくても感知できる。
特殊な機械はいらず結果も早く出ます。
ただし抗原や抗体が別の病原体でも反応する場合があり、検査にどの抗原や抗体を使うかが重要だ。
また抗体は、感染後からつくられるまでに時間がかかるため、抗体検査は過去の感染歴は調べられるが診断には不向きだ。
最後に、PCR検査などの「遺伝子検査」だ。
専用の機械を使い、病原体の遺伝子配列を増やして検出する。
増やすステップに時間がかかるものの、少しでも病原体がいれば検出できるので他の検査に比べて高感度とされる。
病原体の検査は時代とともに進歩してきた。
1676年にオランダのレーウェンフックが肉眼では見えない病原体を顕微鏡を使って観察した。
それから約200年後、19世紀末にドイツのロベルト・コッホが結核やコレラの原因となる細菌を次々と発見し、微生物が病気の原因だとわかった。1894年には北里柴三郎がペスト菌を、97年には志賀潔が赤痢菌を発見。
野口英世は1913年、精神障害が出た梅毒患者の脳の中にも梅毒の病原菌がいることを発見し、細菌と精神障害の関係を明らかにした。
これらの業績は顕微鏡と染色方法の発達が可能にした。
免疫反応を応用した検査も同じころにはじまる。
初期のものに、発疹チフスの診断方法で1916年に開発された「ワイル・フェリックス反応」がある。
そしてここ数十年で急速に発展したのが遺伝子検査だ。
DNAの構造が明らかになったのが1953年で、85年に米国のキャリー・マリスがDNAを増幅するPCR法を開発。
90年代から臨床での検査へ応用されていった。
技術が進み、より早く正確に病原体の「姿」を捉えられるようになった。
数十年前なら新型コロナのような新しい感染症に気づくのにもっと時間がかかったと思われる。
一方、グローバル化が感染拡大を加速させた面もある。
技術の進歩と病原体の拡散はいたちごっこ。
感染を広げず正しい治療法を選ぶために検査はとても重要だ。
遺伝子検査では近年、これまで前処理に必要だった複雑な手作業を全て自動化した機械も出ている。
別の新しい検査方法としては、田中耕一氏が2002年にノーベル化学賞を受賞した質量分析の技術を使ったものがある。
検体の分子レベルの構成要素を分析し、データベースと照合して病原体を同定する。
技術の進化は続いている。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2020.5.16