巣ごもり生活にリスク 中川恵一
米国のトランプ大統領は4月23日の記者会見で、新型コロナウイルス感染患者に「消毒液を注射してみてはどうか」などと発言し、波紋を広げた。
米メディアによると、一部の州などでは消毒液を巡って問い合わせが急増し、当局が対応に追われたという。
アルコール消毒はこのウイルスに対する感染予防には有効だが、消毒液の摂取など非常に危険で論外だ。
飲酒でウイルスを除去できる、あるいは免疫力がつくといった誤った情報も出回った。
新型コロナウイルスに関する誤情報も飛び交うなか、世界保健機関(WHO)は、「アルコールを摂取しても新型コロナウイルスから身を守ることはできず、ウイルスを除去することもできない」として、飲酒を控えるよう呼びかけている。
また、「飲みすぎれば免疫力が弱まってウイルスから身を守る能力が減退する可能性がある」とも指摘している。
しかし、在宅勤務の長期化でストレスを抱え、お酒の量が増えている人は多い。
米国では、在宅勤務者の3人に1人が、在宅勤務中に飲酒すると答えている。
過度の飲酒は、がんも増やす。
アルコールは、男性の発がん原因の9%を占める。
肥満は0.8%、野菜不足は0.7%、運動不足は0.3%にすぎないから、いかにお酒の影響が大きいかが分かる。
また、最近は「過度」ではなく、少量のお酒でもがんのリスクを高めるという研究結果も出ている。
「巣ごもり飲酒」はがん予防の面でも危険だといえる。
在宅勤務は、喫煙も増やすようで、SNS(交流サイト)には「在宅でたばこが増えた」という投稿も目立つ。
喫煙は新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクを高めるし、酒とたばこが重なると、発がんのリスクも高まるから要注意だ。
巣ごもり生活で運動不足となり、糖尿病を発症すると、膵臓がんや肝臓がんは2倍に、がん全体でも2割も増える。
こまめに体重計に乗ることが大切だ。
感染症対策が、結果的にがんを増やすことになっては、本末転倒。
「全体としての健康」を保つことが大切だ。
執筆 東京大学病院・中川准一 准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2020.6.3