がん検診 個人のリスクに沿った検査を

個人のリスクに沿った検査を

死亡率を下げるエビデンス(証拠)があるがん検診には胃がん、肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がん検診がある。

健康増進法に基づき、市町村が住民検診の形で実施している。

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この中に前立腺がんが入っていません。

 

しかし2016年の国民生活基礎調査によると、がん検診を受けた人の多くが職場で受診している。

胃がんで58%、肺がんで63%、大腸がんで55%と、男女が受けるがん検診は6割近くが職場で行われている。

乳がんや子宮頸がんは3~4割だが、これから女性の就業率が上がれば、この比率は上がるはずで、職場でのがん検診はさらに重要になる。

 

がん検診の主戦場といえる「職域がん検診」は企業が福利厚生の一環として任意で行っているもので、裏付ける法律はない。

法律に基づく指針もないため、検査方法や対象年齢などにばらつきがあるという問題が指摘されてきた。

 

厚生労働省もこの点を重視し、ワーキンググループを設置し、議論を重ねてきた。

その結果「職域におけるがん検診に関するマニュアル」がまとまり、2016年3月末に公表された。

 

このマニュアルでは死亡率を下げるエビデンスを持つ住民検診を基本にすべきだとしている。

一方で、会社が補助する人間ドックなどは死亡率を下げることだけを目的とするわけではなく、生産性の向上や生活の質の維持なども目指している。

 

マニュアルでも「現在職域で特定の目的をもって行われている既存の任意型検診を妨げるものではない」という記載があるのはこのためだ。

例えば胃がんの原因の98%を占めるピロリ菌のチェックは住民検診にはない項目だが、リスク判定には有用だ。

家系にがん経験者が多い人は、乳房の超音波検査や大腸内視鏡、ヘビースモーカーは低線量コンピューター断層撮影装置(CT)を検討してもよいかもしれない。

 

胃がんの住民検診でも約2年前からバリウム検査のほかに内視鏡も選択肢として加わるなど、がんの早期発見法も時代とともに変わってきた。

職域でのがん検診も、個人のリスクを考慮しながら合意性のある範囲で検査の個別化を考えてよいと思う。

 

執筆

東京大学病院・中川恵一准教授

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊 2016.4.11