アルツハイマー型認知症、ダウン症通し治療法探る
染色体異常で起こるダウン症の人が40歳を過ぎると、アルツハイマー型認知症になりやすいことが知られている。
ダウン症を通してアルツハイマー病のメカニズムや治療法を探ろうという取り組みが進む。
それぞれの研究が進めば、どちらの対象者にも恩恵があると注目されている。
ダウン症の人はアルツハイマー病の発症が増えるなど高齢期の課題に直面している。
ダウン症は細胞にある46本の染色体のうち21番染色体の先天的な異常で起きる。
染色体は2本ずつペアになっているが、ダウン症では3本ある。
人により程度は異なるが知的障害や心臓異常などが出る。
以前は小児で亡くなる例も多かったが、心臓手術の普及や医療の進歩で平均で約60歳まで生きられるようになった。
それによりアルツハイマー病も増えた。
これには3本に増えた21番染色体にある遺伝子の働きが、通常の1.5倍になることなどが関係すると考えられている。
アルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドベータ」のもととなるたんぱく質を作る遺伝子も21番染色体にある。
この関係などを解き明かそうと研究が進んでいる。
ダウン症の人から提供された細胞を使った実験で、21番染色体にある遺伝子により作られる酵素が過剰に働き、アミロイドベータを分解する別の酵素の働きが低下していることが突き止められている。
アミロイドベータの過剰生産と分解低下が相まって、アルツハイマー病を早期発症している可能性がある。
今後は過剰な酵素の働きを抑える薬の開発が進む。
ダウン症の新生児の臍帯血を使ってiPS細胞を作った実験がある。
これをもとに育てた神経細胞を培養すると、内部にあるたんぱく質の凝集体が蓄積して細胞死が進んだ。
これは脳内にアミロイドベータが蓄積するアルツハイマー病の現象と似ている。
阪大は神経細胞に投与すると、凝集体の蓄積や細胞死を抑えられる物質を見つけた。
こうした成果がアルツハイマー病の新薬開発に役立つ可能性もある。
京府医大では、ダウン症の人がアルツハイマー病を発症しているかどうかを血液中のたんぱく質「タウ」を測って調べようとする研究だ。
タウもアミロイドベータと並んで、アルツハイマー病の原因物質の一つとされる。
患者の脳で見つかり、通常は陽電子放射断層撮影装置(PET)で調べる。
だが、ダウン症の場合、検査内容の難しさから適用しにくい場合がある。
そのため、アルツハイマー病向けに開発された血液診断技術を応用しようと考えた。
アルツハイマー病の患者でみられる分子構造のタウとのみ結合する抗体を目印に測る。
測定キットを作って特許も出願した。血液で病変を見分けられればダウン症だけでなく認知症の人にも貢献できると見込む。
こうした流れは米国が先行する。
米国立衛生研究所(NIH)にはダウン症の成人を対象に、アルツハイマー病の目印を探す研究組織がある。
アルツハイマー病に対するワクチン療法の実現に向けて、スイスの製薬企業と米カリフォルニア大学がダウン症の成人を対象に臨床試験(治験)を進めている。
ダウン症の研究がほかの病気の創薬に役立ち、一般の研究がダウン症の人に役立つようになれば、と期待される。
ただ研究対象となることを不安に感じることもあるので、ダウン症の人や家族に対して十分な配慮や説明は欠かせない。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.2.17
<関連サイト>
https://aobazuku.wordpress.com/2020/07/12/ダウン症とアルツハイマー病/