アビガン、新型コロナの効果検証続く

アビガン、新型コロナの効果検証続く 承認は慎重に 

新型コロナウイルス感染症の治療薬として期待されているアビガン(一般名ファビピラビル)の効果について結果が出始めた。

藤田医科大学は2020年7月10日、解熱が早まる傾向があったが有効性は確認できなかったと公表した。

国内では藤田医大を含めて効果を調べる試験などが3つ並行して進む。

実用化すれば国産初の治療薬となるため期待は大きいものの、慎重な検討も必要だ。

 

アビガンは細胞内でウイルスの遺伝子が増えるのを抑える働きがあるとされる。

2月に中国の病院で患者がアビガンの後発薬を服用したところ解熱までの期間が短くなったり肺炎が改善したりする可能性があると報告があった。

これを受けて3月から日本で効果を調べる試験が始まった。

 

進む臨床研究

その一つが藤田医大による特定臨床研究だ。

臨床研究は治療薬候補などの効果を調べる方法の一つ。

患者を投与する人と投与しない人に分けて効果を比べる。

副作用などのリスクは最小限にしながら進める。

 

藤田医大は無症状や軽症の患者89人で試みた。

条件に当てはまらなかった患者などを除き、36人が毎日飲み、33人が飲まずに6日間過ごした。

その結果、服用した患者でウイルスが無くなったり熱が早く下がったりする傾向がみられたものの、期待したような有効性は確認できなかった。

臨床研究は終えたものの、患者数をもっと増やした試験なら効果が確認できた可能性はあるという。

 

治療薬の実用化に向けた道のりは長い。病気を防ぐ効果が期待される化合物を見つけ、動物実験を経

て、患者に投与する臨床試験などへ進む。

実用化に至るまでの期間は9~17年。

多くの化合物は効果や安全性が確認できず途中で脱落していく。

最終的に薬としてゴールできる確率は2万分の1以下とされる。

 

開発期間短く

その点、アビガンは有利だ。既に新型インフルエンザの治療薬として国が承認している。

胎児に奇形が生じる副作用が指摘されるが一定の安全性は確認済み。

安全性の確認が省略できるので開発期間の短縮につながる。

新型コロナの患者で効果を確認するのが、残されたハードルだ。

 

藤田医科大の臨床研究では効果は確認できなかったが、アビガンを製造販売する富士フイルム富山化学も4月から臨床試験(治験)を進めている。

主に肺炎になった中等症の患者が対象で、アビガンを服用する人としない人で回復までの期間などを

比べる。

 

治験は企業などが国の製造販売承認を得ることを目的として、医薬品医療機器等法という法律で定め

られた手続きで進める。

承認が得られれば副作用で後遺症が残った場合などに国が一定の補償を行う。

承認された薬なら医師も患者も安心しやすい。製薬企業にとっても国のお墨付きを得て治療薬を販売

できる。

 

同社は4月から治験を始めて現在も継続している。

患者が思うように集まらず当初の計画より時間がかかっているが、全国で患者数が増加傾向にあるた

め、治験に参加する患者も増えそうだ。

 

アビガンを患者に投与する3つ目の取り組みが観察研究だ。

これは国の承認を得ていない治療薬の使用状況を把握するのが目的だ。

医師が医学的に必要と判断すれば投与できる「医療の裁量権」に基づき、患者の救命を最優先にする狙いから「人道的使用」とも呼ばれる。

国内ではすでに1100以上の医療機関が参加して2千人以上の患者が服用している。

 

日本では厚生労働省が観察研究の条件を公表し、医師の判断と患者の同意をもとに投与するなどとし

ている。

ただ副作用が起こっても国の補償は受けられない。

また副作用の有無の評価はできるが、服用しなかった患者との比較ができないため、患者数を増やしても有効性の評価は難しい。

治療薬として国の承認を得るには、治験や臨床研究によってデータを改めて集める必要がある。

 

こうした治験などを経てアビガンが実用化すれば、国内の製薬企業が開発した初めての新型コロナに

対する治療薬となる。

臨床研究が始まった当初、政府は有効性が確認されれば5月にも承認すると前向きに動いていた。

ただ日本医師会など専門家からは、副作用の問題点を指摘し早急な承認を危惧する意見が出ていた。効果と安全性を見極めながら治療薬として認めるか慎重な判断が求められる。

 

新型コロナウイルスの治療薬 国内では米医薬大手ギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱の薬として開発を進めていた「レムデシビル」と、関節リウマチなどに効果があるステロイド薬の「デキサメタゾン」の2つが治療薬として認められている。

いずれも欧米など海外で効果が確認され、日本政府が承認した。

 

新しい治療薬の開発には少なくとも10年近い時間がかかるため、他の病気で効果がある既存薬を

中心に探索が進む。

当初、期待された抗エイズウイルス(HIV)薬の「カレトラ」や抗マラリア薬の「クロロキン」は臨床試験で効果がないとわかり、実用化は断念された。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.7.31

 

<関連サイト>

アビガンの効果検証中

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/1241