PCR拡充、自治体急ぐ

PCR拡充、自治体急ぐ 「偽陰性」感染拡大懸念も

新型コロナウイルスの流行時に必要となる、ウイルスの有無を調べる検査の最大想定は、全国で1日計5万6千件にのぼるとの推計を、厚生労働省が公表した。

都道府県は検査体制の拡充を急ぐが、7月以降の全国的な感染拡大に直面するなか、課題も浮かぶ。

 

検査可能件数1日90件の島根 関東へ検体 結果まで数日

島根県雲南市では7月21日、市役所の職員1人の感染が分かり、その3日後に職員2人の陽性が判明。

市役所の職員約300人のPCR検査をすることになったが、県内の1日あたりの検査可能件数は90件。

県の担当者は「あわてて民間の検査機関と契約を結びました」。

 

ただ、検体の送り先が関東だったため、結果がわかるまでに数日かかった。

 

契約は今年度末まで結んでいるが、検査結果はなるべく早く欲しい。

島根県は流行時に必要となる最大想定の1日400件分を、地方衛生研究所など県内で分析できるよう、PCR検査や抗原検査の機器を増やす予定だ。

 

県内に分析できる民間の検査機関がない地方だと、民間を活用しても結果が出るのに時間がかかる。

自前の検査機器の調達に力を入れる自治体は複数ある。

 

機器の導入をめぐっては「納入まで時間がかかっている」と取材に答えた自治体が愛知県など複数あった。

国の補助金を利用して全国の自治体が一斉に導入を進めているからだ。

 

検査機器で分析するには専門技術が必要で、対応できる人材は限られる。

検査が自動化された機器に期待を寄せる声も兵庫、徳島、愛媛県などから聞かれる。

 

全自動でPCR検査ができる機器を販売する「日本BD」(東京)は新型コロナの感染拡大後、毎月20台前後の受注があり、製造が追いつかないほどだという。

 

検査能力だけ高くても・・・

一方、検査機器で分析する能力がいくらあっても、検体が十分に採れる態勢がないと数多く検査はできない。

検体を採る際に作業する人が感染してしまう恐れがあるため、感染症対策の設備が整った場所で防護具をつける必要があるなど、慎重な作業が求められる。

 

青森県の担当者は「検査能力に対しての検体採取能力の不足」を課題に挙げる。一つの医療機関で1日に採取できる検体数は限られ、大幅に増やすのは難しい。県内の医療機関で可能な最大採取数は、分析可能な検査数よりも大幅に少ないという。

 

こうしたなか、京都府は7月、府医師会と契約し、唾液を採取できるクリニックを140以上にまで増やした。

担当者は「検査能力と検体採取能力の両方がないとだめ」とし、検体が採れる医療機関をさらに広げていく予定だ。

 

3~4月は全国の医療機関でマスクやガウンが足りず、院内感染のおそれもあり、検体を採れる場所が限られた。

現在は感染リスクが比較的低い唾液で検体を採ることが認められ、クリニックでの検体採取がやりやすくなっている。

 

岐阜県は7月末、1日500件の最大想定の2倍にあたる1千件まで独自に増やすと発表した。

その場で検体採取と検査ができるPCRセンターを増やし、県内10カ所にするという。

 

近隣の自治体で連携し、検査をこなす動きもある。

大分県では3月下旬、県の1日最大可能件数約130件を大きく超える数の検査が必要となった。

そこで、九州・沖縄・山口の9県が締結している災害時応援協定を使い、福岡県や長崎県PCR検査を行った。

逆にその後、大分県が他県の検査を引き受けたこともあるという。

 

陽性者隔離 歯止めに効果

検査数、どこまで増やせば? 検査増求める声 根強く

PCR検査をめぐっては「第1波」の流行が起きた3~4月、全国で検査を受けられない人が続出した。

国内の検査能力に限界があったうえ、4月はじめまで陽性者は原則入院だったことから保健所が病床数を意識して、検査を抑える意識につながった面もあった。

濃厚接触者でも無症状の人は受けられない状況だった。

 

安倍晋三首相は4月6日、検査能力を1日2万件に倍増すると表明。

その後、国は保健所や地方衛生研究所でできる検査数を増やすため、検査機器の導入を促し、民間の検査機関の設備投資も支援している。

医師が必要と判断した場合は保健所を介さず検査ができる「PCRセンター」の設置が各地で進むなど、「目詰まり」を解消するための対策が打ち出されている。

 

朝日新聞が各都道府県に聞いた7月末時点の検査能力は、回答があった46都道府県で計約4万2千件(民間検査機関の活用を含む)にのぼる。

ただ、今後の流行時に必要になる最大想定を少なくとも30都道府県が下回っている状況だ。

人口10万人あたりの検査可能な件数をみると、4月より増えているものの、都道府県ごとに差がみられる。

厚労省は、機器の導入などにより9月末までに全国で最大計約7万2千件のPCR検査や抗原検査ができるようになると見込む。

 

感染者の急増を受けて日本医師会が8月、医師が必要と認めれば確実に検査できるよう、検査のさらなる充実を求める緊急提言を発表するなど、PCR検査を増やすよう求める声はいまも強い。

 

検査はどこまで増やすべきなのか。

 

専門家、なお割れる賛否

一般的に検査可能件数を増やすほど、陽性の人が多く見つかる。

その人を隔離すれば感染拡大に歯止めがかかる。検査待ちも起こりにくい。

 

一般的には濃厚接触者にあたらない接触者にも検査を広げる必要があると考えられる。

日本の検査体制は新型コロナの感染拡大前から世界に遅れていた。

今後の新興感染症への対応に立ち遅れないためにも、検査体制を整えておかないといけない。

 

偽陰性」感染拡大懸念も

一方、症状が出ていない人を検査してもほとんどが陰性になる。

そういった意味では検査数はおおむね適切な範囲になっている。

PCR検査のやり過ぎも弊害がある。

PCR検査では検査精度の限界から本当は陽性なのに陰性と判定される「偽陰性」が約3割いると言われている。そ

の人たちが陰性判定によって、検査を受けていない時以上に安心して外出すれば、本当は陽性のため、気付かないまま感染を広げかねない。

検査があったら安心という問題ではない。

 

民間検査機関による検査は増えている。

自費検査による社員や顧客への感染拡大防止や、海外出張への備えなどビジネス上のニーズが増えており、民間機関も設備投資を進めている。

一方で、民間機関は公的検査も請け負う。

保健所からは、民間機関で私的な検査が増え続ければ、公的検査に時間がかかるなどの影響が出ないか心配する声も出てきている。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 20208.9

 

 

<関連サイト>

1日のPCRなどの検査能力

https://aobazuku.wordpress.com/2020/08/10/1日のpcrなどの検査能力/