社員がコロナ感染 心得は 専門家の話・企業の実例からみる
感染拡大の勢いは鈍ってきたが、新型コロナウイルスの収束はいまだ見通せない。
今春と比べ出勤者が増えたことで、企業のリスクはむしろ高まっている。
社員のコロナ感染を想定し、周到な準備が欠かせない。
(1)行動追跡へ席固定
企業が対応を迫られるのは、感染による業務への影響が大きいからだ。
労働契約法は企業に対し、従業員全体に安全な就業環境を提供する義務を定めている。
感染者を出社させると他の社員の健康を損ないかねない。
職場内の感染をいかに防ぐか、が対応の焦点になる。
最優先は保健所との迅速な連携だ。
社員が陽性判定を受けると、診断した医療機関は最寄りの保健所に届け出る。
ただ企業がオフィスを構える自治体の保健所とは管轄が異なることも多く、連絡に時間がかかる恐れがある。
社員には「感染したら会社にも一報を」と周知しておくのがよい。
保健所と連携する第1の目的が、感染者と濃厚接触した社員の特定だ。
「以前は現場を訪れて判断していたが、最近は多忙になり電話で済ますことが多い」。
東京23区のある保健所は明かす。
適切に判断してもらうために、フロアの見取り図や席次表を事前に用意しておくのがよい。
会議出席者の記録も役に立つ。
盲点は社員が自由に座席を選ぶフリーアドレス制だ。
最近は採用する企業も多いが、日本産業衛生学会(東京・新宿)は「禁止するか執務場所を限定するのが望ましい」と呼びかけている。
感染者や接触者の行動を追跡するのが難しいからだ。
保健所と連携する第2の目的が消毒だ。
「社員によるふき取り作業でも効果は十分にある」(東京23区の保健所)といい、企業は消毒方法や範囲について専門的な指示を受けられる。
実際、複数の感染者が確認されている関西の電子部品大手でも「社員だけで消毒対応している」という。
一方「まわりの従業員の安心を優先したい」(大手金融機関)との狙いで専門業者に依頼する企業も多い。
業者選びに困ったら、消毒業者などでつくる各都道府県のペストコントロール協会で紹介してもらえる。
一般的な店舗やオフィスの場合、1度の消毒に数十万円かかるのが相場のようだ。
一時のような逼迫感はなく、小売り大手によると「即日対応してくれる業者も少なくない」。
(2)陰性証明は求めず
職場での感染連鎖を防ぐには、社員に自宅待機を命じる必要も出てくる。
賃金の扱いや復帰までの期間は、感染者か濃厚接触者かで異なる。
感染者は新型コロナにより就業不能状態にあるとみなされる。
「職場での感染が明らかで、かつ企業が感染防止の合理的な努力を怠っていた」などの例外を除けば、賃金や休業手当の「支払い義務は原則としてない」。
ただ社員には別途、健康保険から支払われる傷病手当金を案内すると親切だろう。
日本産業衛生学会は「発症から少なくとも10日が経過し、かつ、薬の服用を終えて症状もなくなってから72時間が経過している」ことを感染者の職場復帰の目安としている。
新型コロナは発症後7日程度たつと感染力が急速に落ちるとされる。
一方、濃厚接触者は必ずしも感染しているわけではない。
会社が自宅待機を命じると「安全な職場をつくるためという経営上の必要性」を伴うので会社都合とみなされ、休業手当が必要になる可能性がある。
社員の同居家族が感染した場合も同様の取り扱いが多い。
PCR検査が陰性でも、感染が確認された同僚と最後に接してから14日の健康観察が指示される。
安心のためとはいえ、自宅待機の解除にあたって陰性証明書や治癒証明書を求めるのは禁物だ。
PCR検査の実施能力には限りがあり、その精度自体にも課題があると指摘されている。
専門家らは「陰性証明は実効性に乏しい」と口をそろえる。
厚生労働省も「医療機関に発行を依頼する行為は控えてほしい」と訴えている。
(3)公表は同意の上で
企業によって判断が分かれているのが、社内に感染者が出た事実をどう開示するかだ。
ある大手金融機関では不特定多数の顧客に接する窓口担当者の感染と、接触者を追跡しやすい法人営業担当者の感染とで開示の仕方を変えた。
ある総合商社では最初に感染が確認された際には最終出社日など行動履歴を詳述。
一方で2回目以降は同業他社の動向をふまえ、発生の事実を簡潔に知らせるように軌道修正した。現時点では「どこまで公表すべきか一律の基準はない」のが現実だ。
いたずらに公表すれば、企業としての風評リスクや感染者に対する二次被害が懸念される。
半面、公表を怠れば対策が後手に回りかねず、不正確な情報が拡散する恐れもある。
両方のリスクをてんびんにかけての、慎重な判断が求められる。
コメント
そこが一番難しいところです。
原則、報告義務がない限り隠蔽されるのが普通です。
いずれにしても、感染症の罹患は個人情報にあたり、公表前には同意が必要だ。
名前を伏せるのはもちろんだが、小規模拠点での感染発生を知らせるときも、風評リスクを考えて最大限の配慮が欠かせない。
社内外の情報開示の度合いをそろえないと、社員がSNS(交流サイト)などで社内向けの情報を拡散し、のちに開示姿勢をめぐって批判を浴びるリスクもある。
文書は社内外で必ず統一するなど、事前に開示ルールを決めるのが理想的だ。
政府が感染症法上の分類の見直しを検討するなど、新型コロナをめぐる状況は日々変わる。
適切な判断は事前の準備あってこそだ。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 20209.11
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