治験に難しさ、製薬会社も敬遠 個人輸入で使用、不安抱く患者

先端的な抗がん剤などが次々に登場するなかで、小児用の薬がなかなか増えない。

患者数が少なく臨床試験(治験)がしづらいうえに薬の形状や量の工夫に手間がかかり、製薬会社も敬遠しがちなためだ。

個人輸入し、用量や服用期間がわからないまま不安を抱きながら使っている患者もおり改善を求める声は多い。

 

「おなかが痛い」。

2006年のクリスマスイブに5歳のAさん(女児)。

近所のクリニックの診断は便秘。

様子を見ることにしたが、5日後に体調が急変して専門病院の救急を受診し、神経芽腫というがんが破裂したことがわかった。

 

神経芽腫は0~4歳の乳幼児に多い病気だ。

発症するのは年間約200人という珍しいがんで、診断時には全身に転移していることも多い。

治療はまずシスプラチンやシクロホスファミドなど既存の抗がん剤を組み合わせて投与するのが一般的だ。

必要に応じて放射線も併用する。

 

自身の血液を作るもとになる造血幹細胞をあらかじめ採取、保管しておき、抗がん剤治療後に移植する方法もある。

病変部を摘出できる場合は手術もする。

こうした治療を経験し、いったん回復した。

ところが4年8カ月後に再発し、厳しい治療を繰り返して何とか切り抜けた。

 

Aさんの母親は再発防止用の薬として米欧で使われているレチノイン酸のことは知っていた。

もともとにきびの飲み薬で日本では承認されていない。

最初の治療後は使わなかったが「自分を責め、今度は絶対に使うと心に決めていた」。

医師に相談し個人輸入して服用した。

そのおかげか、2度目の再発は起きていない。

 

「レチノイン酸は米欧では神経芽腫の再発を防ぐのに使うのが当たり前になっている」と専門家はいう。

患者や家族の組織、神経芽腫の会のアンケート調査によると、回答者の約9割がレチノイン酸を「内服した」、または「内服中」と答えた。

6割近くは個人輸入していた。

 

入手できても添付文書には子ども向けの用量の記載はない。

未承認薬のため医師も必ずしも協力的ではない。

どの時点でやめるべきなのか、よくわからないまま服用を続ける人も多い。

 

遅れを取り戻そうと国立がん研究センター大阪市総合医療センターがレチノイン酸の仲間でビタミンAに似たタミバロテンを使った医師主導の治験を15年に始めた。

遺伝子の働きを調節する脱メチル化剤デシタビンと組み合わせ、再発がんの治療効果を高める方法も取り入れた。

主に安全性を調べる最初の段階を終えて有効性をみる第2段階に進んでいる。

 

最近、注目される免疫療法で使う抗GD2抗体という薬も、海外では標準だが日本では承認されていない。

抗体はがん細胞表面のGD2という物質にくっつく。

そこへ白血球などが結合し、細胞を殺す。

点滴薬で、医師の管理下でないと使えない。

現状ではこの薬で治療を受けたければ海外に行くしかなく、ハードルは高い。

*<コメント>

諸外国で使用されているのに日本国内で認可されていない薬剤が数多く存在します。

認可がただ遅れているだけなのか、はたまた将来にわたって認可されないのかも判然としません。

こういった実情については国民は「知る権利」があります。

必要とする患者側から公開質問状を提出する前に、厚労省は(認可しない)理由を公開する必要があります。

こんな実情では「医療先進国」などとはとても言えません。

医療が一流であっても行政が二流であっては、医療界は必然的に二流となってしまいます。

新型コロナ対策としてのアビガンも認可が大幅に遅れました。

国産の薬剤が諸外国で当たり前のように使われているのに国内では使用できないという現状がありま

す。(近々やっと認可されるようです)

 

大阪市総合医療センターなどは12年から、抗GD2抗体と白血球の働きを高めるサイトカインを組

み合わせて使う医師主導治験を実施してきた。

データがそろい、大原薬品工業がこのほど承認申請した。

8月に希少疾病用医薬品に指定されており、承認に要する期間が短縮される見通しだ。

 

小児がんの発症は年間2500人前後と少なく、臨床試験の被験者を集めにくい。

低年齢だと錠剤やカプセルは服用できず、液や粉末を別途、開発する必要もある。

製薬企業にとって採算が合いにくく、薬が増えないという。

 

このため、米欧では00年代の初期に、成人の薬を開発する際に、小児用の治験計画も提出するよう法で義務付けた。

見返りに特許の独占実施権の延長や審査期間の短縮クーポン付与など、インセンティブを与える。

結果として、小児が使える薬は飛躍的に増えた。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2020.9.28