ウイルス・細菌 原因の2割
ウイルスや細菌が原因となるがんはたくさんある。
肝臓がんの原因の8割程度がB型、C型の肝炎ウイルスだ。
子宮頸がんでは、原因のほぼ100%が性交渉に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)の感染だ。
胃がんでも、幼い頃のピロリ菌感染が原因の98%といわれている。
母乳を通して感染するウイルスが原因となる白血病もある。
ウイルス、細菌の感染は、日本人のがんの発症原因の約2割を占め、喫煙率の低い女性では、発がん原因のトップだ。
欧米では、がんの病因のうち、5%程度が感染症とされているから、日本のがんはまだ「途上国型」のタイプが多いといえる。
これは、たった一つのがん細胞が増殖を開始してから検査で発見される1センチ程度になるまでに20年といった長い年月を要するためだ。
今日見つかるがんは、20年前の日本社会を反映しているからだ。
とはいえ、「感染型のがん」の多くは減少傾向にある。
輸血の血液から肝炎ウイルスを取り除くようになり、肝臓がんの死亡率は10年で半減している。
冷蔵庫の普及によって、新鮮な食品を口にできるようになって、ピロリ菌の感染率が激減し、胃がんも大きく減っている。
しかし、子宮頸がんは検診の普及で減少していたが、2000年ごろより再び増加に転じている。
性行動の変化や検診受診率の低下が背景にある。
もう一つの問題が、HPV予防ワクチンだ。
13年から定期接種となったこのワクチンは、接種率が一時8割に達したが、いまや、ほぼゼロとなっている。
この結果、接種が進んだ20代前半の女性だけ、将来の発がんリスクが半分程度になるという不公平が生じている。
海外では、男子への接種も行われており、日本だけが取り残されている。
ただ、ワクチンによって子宮頸がんが本当に減るかどうかはこれまで確認されておらず、「ワクチン不要論」の論拠の一つとなってきた。
しかし、(2020年10月)1日、世界トップクラスの米医学雑誌に、HPV予防ワクチンが実際に子宮頸がんを予防するという研究結果が掲載された。
執筆
東京大学病院・中川恵一 准教授
参考・引用一部改変 2020.10.21