腎性貧血の新薬 続々登場

腎性貧血の新薬 飲み続々登場 要の酵素研究にはノーベル賞

透析患者らに代表的な合併症 効果に期待

腎臓の機能低下が原因で赤血球が減る「腎性貧血」。透析患者らが悩まされてきたこの合併症に対し、これまでとは異なるメカニズムで効く新薬が登場した。効果が期待される一方、予期せぬ副作用が出ないか注視も必要だ。各学会は治療のガイドライン策定を急ぐ。

 

従来のホルモン薬、効きにくい人に

血液を濾過してきれいにする役割を持つ腎臓。

この機能が落ちる慢性腎臓病(CKD)の患者は全国で推計1330万人いる。透析を受けている人は約34万人いる。

 

こうした患者にとっての代表的な合併症が腎性貧血だ。腎臓には造血ホルモンを出して、骨髄で赤血球がつくられるのを促す役割もある。

造血ホルモンが不足し、酸素を全身に運ぶ赤血球が十分つくられない状態になるのが腎性貧血で、疲れやすくなるなど生活の質(QOL)を下げる。

悪化すれば腎臓だけでなく、心臓にも負担が大きい。

 

多くの透析患者が腎性貧血の治療を受ける川崎市内のある医療機関では、これまで数十年にわたり使ってきたのが造血ホルモン薬だ。

透析できれいにした血液を体内に戻すときに一緒に投与する。

しかし、平均的な量の2~3倍以上のホルモン薬を使っても効きにくい人がいる。

慢性的な炎症などが要因とされるが、詳しくはわかっていない。

このような患者は、QOLが低くなりやすく、死亡リスクが高いことが知られている。

 

そこで試されたのが、昨年11月に販売がはじまった新しいタイプの治療薬「HIF-PH阻害薬」だ。

70~80代の透析患者7人ほどに使用すると、それまでなかなか改善しなかった貧血の指標となる検査値が、1カ月ほどで目標とされる範囲に収まった。

 

その後、かゆみなど副作用が疑われる症状がみられた患者もいた。

「今後も注意を払っていく必要はあるが、従来の薬をたくさん使っても目標値にとどかなかった患者さんには期待が持てる薬だ」と院長は言う。

 

副作用や影響への注視必要

従来の薬がホルモンそのものを体内に入れて補うのに対し、新薬は、人体の造血システムに働きかけるのが特徴だ。

その要となるのは、細胞の中で絶えずつくられては分解される酵素「低酸素誘導因子(HIF)」。

造血ホルモンがつくられる仕組みや、酸素を運ぶ物質のもとになる鉄分の吸収や再利用を活発にする。

新薬はこの酵素の分解を妨げる。

HIFの発見や造血システムとの関わりを解明した業績には、昨年のノーベル医学生理学賞が贈られている。

 

貧血の改善が期待できるだけでなく、錠剤タイプののみ薬であることも利点だ。

従来の造血ホルモン薬は注射だったので、貧血治療が必要な患者らは定期的な通院が必要だった。

新薬だと、腎臓病が専門ではないかかりつけ医などが、在宅で治療する患者に処方しやすくなる可能性もある。

医師にとっても針刺し事故などを避けられ、扱いやすい。

 

昨年11月に、このメカニズムの薬として国内で初めて販売された「エベレンゾ」は透析患者のみが対象だったが、今夏には別の製薬2社が、透析が必要になる前のCKD患者にも処方できる薬の販売を開始。

ほかの複数社も臨床試験(治験)を終え、厚生労働省に薬の承認申請を済ませている。

選択肢はさらに広がりそうだ。

 

一方、現時点での使用には慎重さも求められる。

HIFは造血ホルモンや鉄分以外にも、さまざまな仕組みに働きかける。

理論的には血管を新し作る作用などもあり、がんや網膜症の進行に影響する可能性もあるかもしれない。

長期間に多くの患者さんに使ったとき、予期せぬ症状が出ないか慎重に見ていく必要がある。 

同学会は、来月にも新薬の適切な使い方を提言するという。

日本透析医学会は、新薬の使用方法などを盛り込んだ腎性貧血の治療ガイドラインを今後改定する予定だ。

     

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.9.16

 

<関連サイト>

腎性貧血の新しい治療

https://aobazuku.wordpress.com/2020/11/29/腎性貧血の新しい治療/