大腸がん検査受診少なく問題

大腸がん検査受診少なく問題

かつて、日本人のがんの代表は胃がんだった。

たとえば日本でも1960年の男性のがん死亡の半分以上が胃がんだった。

しかし今、胃がんは減っている。

年齢構成を考慮した胃がんによる10万人あたりの死亡数(年齢調整がん死亡率)はこの10年で3割も減った。

 

胃がんの原因の98%が子供のころのヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染だ。

冷蔵庫の普及など、衛生状態がよくなり、ピロリ菌の感染が減っている。

現在の70歳以上では8割近くが感染していたが、大学生で7%程度、中学3年生では4%にすぎない。

米国では胃がんは、白血病膵臓がんより少ない希少がんだ。

40年代にはかつての日本同様、がんのトップだった。

日本より30年も早く冷蔵庫が普及して劇的に減ったのだ。

日本でもさらに胃がんは減っていくはずだ。

 

胃がんに代わって今、日本で患者数が最も多いのが大腸がんだ。

感染型、アジア型の胃がんと異なり、大腸がんは肥満や運動不足、肉食などがリスクを高める欧米型のがんの代表だ。

胃がんから大腸がんへのトップ交代は、がんが社会と共に姿を変える病気であることを端的に示している。

 

さて、大腸がんで一年間に亡くなる人の数は、日本が人口3億3千万人近い米国より多くなっている。

がんは細胞の老化と言える病気だから、高齢者が多い日本にハンデがあるのは確かだ。

しかし、日本では、このがんの早期発見がうまくいっていないのは間違いない。

 

このがんは早期に見つかればほとんど治る病気だ。

もっとも早期のステージ1では5年生存率が95%を超える。

早期発見のカギは毎年2回の便潜血検査だ。

しかし、簡単で痛くもかゆくもないこの検査の受診率は4割程度にとどまる。

 

そして、もっと問題なのは、検便で陽性となった方が精密検査(大腸内視鏡)を受けていないことだ。

住民検診の対象となるがんのなかで、精密検査を受けない人の割合が最も高いのが大腸がんだ。

その理由として最も考えられるのが、「痔があるから」と言われる。

 

執筆

東京大学病院・中川恵一 准教授

 

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊 2020.12.23

 

コメント

大腸がん検診を受けることで、大腸がんによって死亡する確率を約60~80%減らせるという調査結果が報告されています。

しかし、日本は他の先進諸国と比べて、がん検診の受診率は低いと言われています。

実際、日本における大腸がん検診の40~69歳の方の受診率は、男性で47.8%、女性で40.9%に留まっています(厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」)。

大腸がんになる人が増え始める40歳を過ぎたら、大腸がん検診を年に1度受けることを厚生労働省は勧めています。

ただし、検診の結果が必ずしも正しいとは限りません。

大腸がんではないのに「大腸がんかもしれない」と言われる可能性(偽陽性)や、逆に大腸がんの見逃し(偽陰性)もあります。

また、新たに大腸がんが発生する可能性もあるため、毎年大腸がん検診を受けることが大切です。

陽性の場合、この検査が大腸ファイバーを受ける機会を作ってくれた、つまり背中を押してくれた、と考えたいものです。

 

 <関連サイト>

大腸ポリープ

https://doctorsfile.jp/medication/185/

・大きくは腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられ、さらに腫瘍性ポリープは腺腫とがん、非腫瘍性ポリープは過形成性ポリープ、過誤腫性ポリープ、炎症性ポリープに分類される。これらのうち、よく見られるのは腺腫と過形成性ポリープで、腺腫については良性であっても大きくなると大腸がんになる可能性がある。

・大腸がんが発生する過程に関しては、腺腫が悪性化するパターンと、腺腫の状態を経ることなく、最初からがんとして発生するパターンがあるといわれている。

・ポリープそのものができる原因は、主に遺伝子の異常であると考えられている。大腸がんのリスクを高める要因として、年齢(50歳以上)、家族歴(家族に大腸がんを患った人がいる)、肉食傾向、高カロリーな食事や肥満、酒の飲み過ぎ、喫煙などが指摘されているが、こうした要因が特定の遺伝子に変化を起こすことでポリープを発症し、がんになるといわれている。また家族内で頻発するポリープとして、家族性腺腫性ポリポーシスという数百から数万に及ぶ無数のポリープが大腸にできる病気がある。この病気は遺伝により発症することが明らかになっており、10歳頃にポリープができ始め、20歳頃に診断されるケースが多い。そして年齢が上がるに連れてがん化する確率が高くなり、治療せずに放置すると、一生涯においてほぼ100%大腸がんになるといわれている。

 

 

大腸ポリープガイドQ&A

https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/cp.html

・大腸がんは、正常な粘膜から腺腫(良性腫瘍)が生じ、それが悪性化してがんになる場合と、腺腫の状態を経ずに一気にがんになる場合とがあります。このうち、腺腫となった後に大腸がんになるものについては、腺腫のうちにそのポリープを取ってしまうことで大腸がんを予防することができます。

・2日間の便を調べて1日でも陽性と判定されれば、一般に内視鏡による精密検査を行います。便潜血検査により、進行がんの90%以上、早期がんの約50%、腺腫などのポリープの約30%を見つけることができ、その結果、大腸がんの死亡率を約60%、大腸がんになるリスクを46~80%下げることが報告されています。

また、便潜血陽性以外にも、家族歴、既往歴で大腸ポリープが疑われる場合、あるいはもともと血便や便が細い、腹痛などの症状のある患者さんに対しては内視鏡による精密検査を行います。

 

 

大腸ポリープの種類と「がん化」のしやすさ

https://koganei.tsurukamekai.jp/blog/colorectalpolyp.html

・高リスクなポリープは、大きくわけて3種類です。

2002年にWinawerらは,①サイズが10mm以上の腺腫、②絨毛状腺腫(病理組織学的に絨毛構造を25%以上有するもの)、③高異型度腺腫の3種類が高リスクポリープであると定義し、この定義は現在もなお使用されています。

 

・通常型腺腫の亜分類の中に、管状腺腫と絨毛腺腫の2種類があります。

通常型腺腫のうち90%以上のポリープは管状腺腫に該当しますが、まれに絨毛腺腫であることがあります。

ご自分がポリープの切除を受けた場合に、切除したポリープが「高リスクなポリープであったかどうか」認識しておくことは大事です。