(新型コロナ)重症者に「うつぶせ」治療

(新型コロナ)重症者に「うつぶせ」治療 肺の負担を緩和、酸素取り込みやすく

新型コロナウイルスに感染し、重症の急性呼吸促迫症候群(ARDS)になった患者の治療法として、「療法」が注目されている。うつぶせにする時間を設けることで肺の換気機能を改善でき、世界保健機関(WHO)や厚生労働省も推奨するが、適切に行うには多くの人手が必要となるなど十分な実施体制を整 整えることが不可欠だ。

 

急速な悪化から回復例

新型コロナウイルス感染症の増加を受けて、4月以降、金沢大付属病院(金沢市)では、入院患者(8月末まで)21人のうち10人は、呼吸不全を起こし、人工呼吸器が必要になった。

しかも、そのうち5人は、人工呼吸器をつけても症状は悪くなるばかりだった。

 

集中治療部の医師は「悪化の仕方がすごく早かった」と振り返る。

 

血液中の酸素が著しく低下し、低酸素血症となるなど重症のARDを引き起こしていると考えられた。

そのため、腹臥位療法を、人工呼吸器と組み合わせて行うことに

した。

 

日中は、仰向けで治療を受けている患者を、夕方から翌朝までの平均16時間ほどうつぶせにする。

 

腹臥位療法をした5人のうち4人は、4日以内で効果があらわれ、リハビリを経て、歩いて退院できるまで回復した。

 

全国医学部長病院長会議が、大学病院で行われた新型コロナ重症者への治療法(複数回答)を調べた調査では、重症者487人のうち142人に腹臥位療法を実施し、93人が快方に向かった。

 

ただ、人工呼吸器をつけた患者は、カテーテルなど複数の管につながれていて1本でも抜けると命にかかわる。

片手間ではできない療法だ。

マンパワーとチームワークが求められる。

 

同病院では、医師、看護師、理学療法士らがチームとなって、患者ごとに体位変換のシミュレーションを繰り返し実施。

スタッフを患者に見立てて試した後に、実際には、6~9人で患者の体位を

変えた。

 

また、麻酔がかかり意識がない患者が多いため、夜通しで見守りが必要だ。患者自身が体を動かしたり、痛みを訴えたりしないため、体や顔に褥瘡が

できる可能性があるためだ。

特に目は、圧迫で失明することがあり、要注意だ。

 

加えて、新型コロナの患者に対応する場合、医療者は個人防護具を身につけて行うことになり、大きな負担となる。

 

人手・時間  十分な体制必要

新型コロナウイルス感染症のために重症のARDSとなった患者の治療法として、WHOのガイダンス(暫定版)は腹臥位換気を「推奨」し、厚労省の「診療の手引き」も「有効」とする。

 

腹臥位療法はもともと、肺炎や敗血症などで生じた重症ARDSの患者の治療法として用いられてきた。

 

肺は血液中の酸素を取り込み、呼吸によって二酸化炭素を放出する「換気」を担う。

この機能は、肺の背側に大きく依存する。

仰向け状態が続くと、重力の影響で背側に血流が集まる上に、圧迫で肺の

背側が潰れて血液の酸素化か悪化。

健常な肺の胸側にも障害が生じやすくなる。

うつぶせに変えることで、改善することを期待できるという。

  

重症ARDSに対しては、確立した治療薬などがまだない。

そうした中、腹臥位療法は生命予後の改善効果が見込める有望な治療法の一つとなる。

 

特に近年、どのように実施すれば、生存率を上げるだけの効果があるのか具体的に示す研究結果が示されている。

重要なのは、対象を「重症者」に限定し、「早期」に始め、「1日12時間以上」うつぶせにすることだとする。

このためガイドラインでは「短時間の腹臥位管理では、十分な効果が得られない可能性がある」と注意を促す。

新型コロナの重症者に腹臥位療法を行うには、すでに重症ARDSでこの療法に熟練したスタッフが十分な人数いることが必要となる。

 

<関連サイト>

臥位療法のイメージ

https://aobazuku.wordpress.com/2021/01/19/腹臥位療法のイメージ/