医薬品開発は「RNA時代」
新型コロナウイルスが猛威を振るい、「RNA」という遺伝情報が一気に注目されるようになった。地球上の生命体の起源をRNAとする仮説「RNAワールド」を強く信奉する鈴木勉東京大教授(化学生命工学)は、医薬品開発はコロナのワクチンに応用された「m(メッセンジャー)RNA」によって劇的に進化すると予想する。
生体を形成する高分子にはDNA、RNAという2種類の核酸と、たんぱく質などがある。
DNAは遺伝情報を記録する役割で優れる。
一方、RNAにはたんぱく質を作り出すために遺伝情報を読み取り伝達する役目が知られているが、他にもDNAにはない様々な性質がある。
太古の地球において生命誕生のカギをRNAが握るという考え方は、1986年にギルバート博士が提唱した。
もちろんこれは仮説にすぎず、科学的な検証は難しい。
真偽を議論すると神学論争になるが、私が会長を務める日本RNA学会には「信者」がたくさんいる。
今、はやぶさ2が小惑星から持ち帰った試料にワクワクしている。
宇宙空間でどういう有機物ができるかを調べていくと、生命の初期進化の過程でRNAの果たす役割がより明解になるかもしれない。
新型コロナはRNAを遺伝子とするウイルスだ。
そしてワクチンもmRNAからなる。RNAワールド仮説とは何ら関係はないものの、RNAが今後の医薬品開発のキーワードになるのは間違いない。
ゲノム配列がわかれば、mRNAの鋳型(人工遺伝子)を容易につくれ、開発時間も短い。コロナのワクチンでいうと変異型にも、急なデザイン変更で対応できてしまう。
mRNAワクチンが実現したことで、今後、注視したいのががん領域だ。
患者一人一人で異なる物質に照準を合わせたがんワクチンの研究が一気に加速するのではないか。
米モデルナやドイツのビオンテックは実用化を目指している。
(日経新聞・朝刊 2021.4.9)