免疫の主役「キラーT細胞」がコロナ感染細胞 狙い撃ち

コロナ感染細胞 狙い撃ち 免疫の主役「キラーT細胞」 変異ウイルス撃退か

新型コロナウイルスを強力に撃退する細胞の力に注目が集まっている。

ウイルスに感染した細胞を探して壊す「キラーT細胞」だ。

変異ウイルスにも対応しやすい力を持つほか、高い効果を発揮するワクチンを支えている可能性がある。

抗体と並ぶ「免疫の主役」として、今後の治療や感染防止対策のカギを握りそうだ。

 

人間がウイルスなどの病原体から身を守るために持つのが免疫システムだ。強い免疫には2種類ある。

抗体が活躍する液性免疫と、細胞が直接ウイルスの排除に関わる細胞性免疫だ。

 

このうち抗体は、免疫細胞が作り出すもので、ウイルスに結合し、細胞への侵入を防ぐ。

抗体は1つの細胞がたくさん作るので、効率良くウイルスを除去できる半面、少しでもウイルスの表面のたんぱく質が変化すると、結合しにくくなり、効果が弱まる恐れがある。

 

一方、細胞性免疫の主役はキラーT細胞だ。

ウイルスに感染した細胞を見つけて細胞ごと破壊するパワフルな細胞だ。

新型コロナとの闘いで、このキラーT細胞が重要な役割を果たしているという研究成果が相次いでいる。

 

そのひとつとして、キラーT細胞が、世界中で猛威をふるう変異ウイルスを細胞ごと死滅させる可能性が高いことがわかってきた。

 

国立衛生研究所や米ジョンズ・ホプキンス大学は、通常の新型コロナに感染して回復した30人の血液中のキラーT細胞を分析した。

3月に発表した結果によると、英国型、ブラジル型、南アフリカ型の変異ウイルスに対して、キラーT細胞が認識・反応できることがわかったという。

 

キラーT細胞は、変異ウイルスの変異していない部分も認識する。

変異ウイルスに対してもキラーT細胞は反応して、排除しているとみられる。

 

さらにキラーT細胞は、新型コロナのワクチンが、変異ウイルスの感染阻止や発症予防にも効力を発揮している理由にもなっていそうだ。

 

ファイザーや米モデルナの新型コロナ用のワクチンは、ウイルスの遺伝情報(メッセンジャーRNA)を体内に注射し、人工的に抗体を作る。実はこの抗体は一部の変異ウイルスにはくっつきにくい。

一方で、ワクチンからできたたんぱく質がキラーT細胞を活発にさせ、感染細胞を壊している可能性があるという。

 

米ラホヤ免疫学研究所などは、ワクチンを接種した19人の血液を分析、3月に結果を発表した。

血中のキラーT細胞が、英国型、ブラジル型、南ア型、カリフォルニア型の変異ウイルスのすべてで認識できたという。

抗体が効かなくても、キラーT細胞が働いてワクチンの効力を発揮しているという見方が出てきた。

 

キラーT細胞は重症化防止にも威力を発揮している可能性も見えてきた。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンなどの研究グループは、査読前の論文でキラーT細胞が感染してすぐに働くと重症化を防ぐ可能性があると報告した。

 

 

新型コロナ感染後、軽症もしくは無症状ですんだ41人を対象に血液を分析したところ、感染後早い時期にキラーT細胞が増殖していた。

初期に増殖できた理由について研究グループは、普通の風邪を起こすコロナに感染した記憶が残っており早く増殖できたなどの可能性を指摘している。

 

ラホヤ免疫学研究所も、症状が異なる50人の患者の血液を調べた結果、キラーT細胞などがウイルスの除去や重症化を防ぐために重要とみる。

 

ただ、抗体の量は容易に測定できるが、キラーT細胞は専門的な技術が必要で、手間もコストもかかる。

キラーT細胞を人工的に増やす薬剤なども現在のところない。

キラーT細胞を治療や対策に生かす技術開発は、コロナ克服に向けて重要視されそうだ。

 

治療用のキラーT細胞を人工的に作る試みが国内で進む。

京都大学ウイルス・再生医科学研究所の河本宏教授や藤田医科大などはiPS細胞を用いてキラーT細胞作製に取り組む。

 

感染して回復した人のキラーT細胞から、感染細胞を認識するたんぱく質を作る遺伝子を特定し、他人のiPS細胞に組み込んだ上でキラーT細胞に変化させる。

出来たiPS細胞を感染した人に移植して、体内の新型コロナウイルス増殖を抑えることを狙う。

 

2021年度中に遺伝子を見つけ出し、2~3年後の実用化を目指す。

河本教授は「この方法は他のウイルスにも応用が可能だ。今後新たなパンデミックが起きた際にも対応できるだろう」と話す。

 

<キラーT細胞>

免疫反応を担う細胞の一種。

ウイルスなどの病原体が感染細胞の中で増殖して外に出る前に、細胞ごと殺す。

結果的に病原体は増えない。

抗体はウイルスとくっついて細胞に入れなくするため、ウイルスを排除する仕組みが異なる。

キラーT細胞は体中の粘膜にいるとされる。

敵の形状を覚えたキラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞がいたらすぐに出動する。

健康な細胞は殺さない。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.4.26

 

<コメント>

「健康な細胞は殺さない」ということですが、「感染した細胞ごと殺す」(一種のオートファジー)ということは人体の細胞数が減る、ということです。

「感染した細胞」は「意味がない(役立たずな)細胞」と言ってしまえばそれまでですが、ちょっと心配になってしまいます。

意味合いはちょっと異なりますが、昔、江戸の火事で延焼拡大を防ぐために火消しが燃えていない家や燃え始めた家を壊していたことを連想しました。