「第5のがん治療法」 光免疫療法

光免疫療法の専門研究所 乳がんなど根治に挑む

「第5のがん治療法」といわれる光免疫療法の研究所を2022年4月に関西医科大学が設置する。光免疫療法は顔や首にできる頭頸部がんについて条件付きで認められているが、治療対象の拡大を目指す。

抗がん剤放射線など他の治療と併用しやすく、普及すれば患者の選択肢が増えそうだ。

 

がん治療は従来、

①患部を切除する手術

放射線

抗がん剤が主だった。

第4の治療法として、2014年発売の小野薬品工業のがん免疫薬「オプジーボ」をはじめとするがん免疫療法が登場した。

それでも治療できない場合があり、まずは難治性の頭頸部がんの治療で期待されるのが光免疫療

法だ。

 

光免疫療法はがん細胞に結びつく抗体を患者に投与する。

抗体には光に当たると反応する色素が付いている。

体内でがんの周辺に集まったところに外から針を刺したり、内視鏡を入れたりして近赤外線のレ

ーザー光をあてると、色素が化学反応を起こしてがん細胞を壊す仕組みだ。

 

関西医大が設置する「光免疫医学研究所」は世界初の専門研究所だという。

30人体制で、開発者の米国立衛生研究所(NIH)主任研究員、小林久隆さんが所長に就く。

医師主導臨床試験(治験)などを進めて、難治性の乳がん食道がん、子宮頸がんへの適用拡大を目指す。

内視鏡で体の深部にまでレーザー光を届ける技術や、がんを攻撃する免疫の働きを抑える細胞を狙い撃ちにする新たな薬剤の開発なども視野に入れる。

 

条件付き承認取得

小林さんは11年に光免疫療法の基礎技術を論文発表した。

12年に楽天メディカル社(米カリフォルニア州)の前身に当たるアスピリアン・セラピューティクス社が、NIHの特許のライセンスを取得。

その後に楽天会長兼社長の三木谷浩史さんが出資を決断し、事業化につなげた。

20年9月、楽天メディカル子会社の楽天メディカルジャパン(東京・世田谷)が日本で製造販売の「条件付き承認」を取得し、世界で初めて実用化した。

医薬品名は「アキャルックス」という。

 

条件付き承認は17年に始まった制度で、有効性や副作用などを調べる治験が通常よりも少ない人

数ですむので速やかに承認を得られる。

ただ、その条件として、販売後も引き続き有効性や安全性を調べたり、使える施設を限定したりする必要がある。

そこで治療効果などを十分に証明できれば、条件が解除される仕組みだ。

つまり「仮免許」の状態といえる。

 

アキャルックスは局所の頭頸部がんで手術で切除できない場合や再発を対象に認められた。

3月中旬時点で国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)など約20の病院が患者の受け入れ態

勢を整えた。

 

国内外で治療対象を広げようとする取り組みが進む。

米国では、頭頸部がんと皮膚がんを対象に、がん免疫薬と併用する治験をしている。

国内でも、国立がん研究センター東病院食道がんで医師主導治験を進めているほか、胃がんでも治験を計画中だ。

小林さんは「将来は8割のがんの治療に使える」と言う。

 

光免疫療法の利点は「何回実施しても他の治療法の効果を妨げない。

抗がん剤やがん免疫薬の効果が落ちないので併用に適しているという。

光免疫療法でがんを小さくしたうえで、手術で切除して根治を目指すといった治療の選択肢が増

える。

 

治療の影響が全身に及ぶ免疫薬や化学療法と異なり、光免疫療法はレーザー光を当てた部位だけ

けで作用するのも利点だ。

副作用が減れば患者の生活の質の改善につながる。

 

小林さんは「いずれ、光免疫療法の複数の治療薬を組み合わせた治療法が主流になる」と推測す

る。

がん細胞や免疫の働きを弱める細胞を、光免疫療法で攻撃できれば治療効果を高められるとい

う。

 

光免疫療法で治療が難しいと考えられるのは、小児がんと希少がんだ。

一部の小児がんは抗体がくっつく目印となる物質が見つかっておらず、薬剤の開発が難しい。

希少がんは患者が少なく、治験のコストなどとの兼ね合いから企業は開発に及び腰になりがちだ。

国の支援も必要だろう。

 

コスト低減も求められる。アキャルックスの価格は患者の体の大きさにより異なるが、平均する

と1回の投与あたり約400万円で、最大4回使える。公的保険を使うと、自己負担は1回で最大約

30万円になる。

 

NIHの小林さんのもとに留学した約20人が、国内各地の大学や研究機関で光免疫療法の研究を進

めている。

小林さんは「新研究所を拠点に連携や支援をして、日本の研究を活性化させたい」と意気込む。

 

がん免疫

免疫には体内に侵入したウイルスや細菌などの病原体を攻撃する働きだけでなく、自分の細胞から生まれたがんを攻撃する働きもある。

がんを直接攻撃する兵士役の「キラーT細胞」や、がんにくっついて攻撃する抗体を作る「B細胞」など様々な細胞が連携して働いている。

免疫の働きを利用するのが、第4の治療法といわれるがん免疫療法だ。

11年に米国で最初のがん免疫薬が承認され、14年に日本でも登場した。

光免疫療法と組み合わせることで、免疫の働きが高まる可能性があると期待されている。

 

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参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.4.30