コロナ変異拡散 増す脅威 WHO、インド型でも警戒呼びかけ
新型コロナウイルスの変異型の脅威が増している。
世界保健機関(WHO)は10日、インドで見つかった変異ウイルスを「懸念される変異(VOC)」に分類すると発表した。
国立感染症研究所は12日、国内でもVOCにした。
感染力が高まったり、ワクチンの効果を下げたりする恐れがあると警戒を呼びかける。
新型コロナの遺伝情報はRNAという物質に刻まれている。
RNAは4種類の分子が約3万個並んだ構造をしている。
分子の並び方をもとにアミノ酸が作られ、アミノ酸が連なるとたんぱく質になる。
2週間に1つ変化
ウイルスが感染した細胞の中で増殖しようとRNAを複製する際、分子の一部が置き換わったり欠落したりするコピーミスが起こる。
これが変異だ。
変異が起きると作られるアミノ酸の種類が変わり、たんぱく質の構造や性質が変わる場合がある。
その影響で、ウイルスの感染力などの性質が変わることがある。
感染を繰り返す中で変異は蓄積する。
変異の起きる速さはウイルスの種類によって異なるが、新型コロナは約2週間に分子1つのペースで変化している。
変異型の種類が増えると、まれに感染力や病原性が強いウイルスが生まれる。
英国型、ブラジル型、南アフリカ型、さらに最近、注目を集めるのがインド型だ。
これらは新型コロナの表面にあるたんぱく質「スパイク」に変異がある。
新型コロナはスパイクを細胞に侵入する足がかりにする。
ここにワクチンなどで体内にできた抗体が結合すると細胞に侵入できなくなる場合がある。
だが変異ができるとウイルスが細胞とくっつきやすくなったり、抗体が結合できなくなったりして、感染力や免疫の働きに影響する恐れがある。
国内の変異型の大半を占めるのが英国型だ。
2020年12月に英国で報告された。
「N501Y」という変異がある。スパイクは約1300個のアミノ酸からなるが、N501Yの場合、501番目のアミノ酸が従来のN(アスパラギン)からY(チロシン)に置き換わった。疫学的な解析などから、この変異があると、感染力が高まるとされている。
感染研は英国型について、従来に比べて感染力が約1.3倍、重症化リスクが約1.4倍に高まったと推定する。
海外の報告では死亡率が約6割増える可能性が指摘されている。
欧州疾病予防管理センター(ECDC)などは4月、入院するケースが20~30代で3倍、40~50代で2倍に増えるとの分析を公表した。
4つ目の指定
WHOなどは感染力の上昇や免疫の回避が確認された、特に注意すべき変異型をVOCと定義する。
英国型とブラジル型、南アフリカ型、それにインド型を指定した。
VOCより警戒度は低いが、複数の感染例やクラスターが確認された変異型については「注目すべき変異(VOI)」と位置づける。
VOIにはフィリピン型や米カリフォルニア型など6種類がある。
ブラジル型と南アフリカ型はN501Yだけでなく「E484K」の変異もある。
この変異があるとウイルスが体の免疫から逃れやすくなり、ワクチンでついた抗体の効果が弱まったとの指摘もある。
WHOなどがVOCに指定したインド型には変異した部位の違いなどから、細かくは3つのタイプがある。
インドでは複数の変異型が流行しており、違いを探る調査が進んでいる。
インド型で注目される変異は「L452R」と「E484Q」だ。
インド型には両方持つタイプとE484Qを持たないタイプがある。
両方を持つと感染性が高まったり、ワクチンの効果を弱めたりする可能性が指摘されている。
E484Qについては、回復者が持つ抗体の感染を防ぐ効果が弱まったとの報告がある。
L452Rは米カリフォルニア型にも共通する。
米科学誌セル掲載の論文は回復者の抗体の効果が7~8割下がり、ワクチンでついた抗体の効果が半減すると報告した。
感染力が増す懸念も示した。
感染が続く限り変異は避けられない。
止めるにはウイルスを封じ込めるしかない。
ワクチン接種や感染防止対策などの徹底を国際的に進める必要がある。
RNAウイルス
新型コロナやインフルエンザ、エイズなどのウイルスがある。
DNAでゲノムを持つDNAウイルスには子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイル
スなどがある。
RNAウイルスはDNAウウイルスに比べると変異が起きやすい。
ただ新型コロナは複製ミスを修復する機能を持つため比較的起きにくい。
新型コロナは人の細胞に侵入してRNAを複製する際にウイルス自身の酵素を使う。
治療薬のレムデシビルなどはこの酵素の働きを抑える。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.5.17
<関連サイト>
新型コロナワクチンの変異