人工呼吸との中間、新酸素療法 

人工呼吸との中間、新酸素療法 意識保ちつつ、多量の酸

新型コロナウイルス感染症に対して、新しい治療法が広がっている。

鼻に差し込んだチューブから多量の酸素を送り込む方式で、人工呼吸を使うような重い症状でも、意識を保ったまま過ごせるのが特徴だ。

感染拡大「第5波」に追われる医療現場の負担も小さい手法として期待されている。

 

新しい治療法は「ネーザルハイフロー(高流量鼻カニュラ酸素療法)」と呼ばれる。

肺の機能が落ちた患者が、鼻に差し込んだ専用の管(カニュラ)を通して酸素を吸入する。

 

従来式の酸素療法と外見は似ており、意識のあるまま治療できるのは共通だ。

特徴は、従来式に比べて10~20倍の多量の気体を鼻から送り込むこと。

肺に酸素が安定的に届き、人工呼吸に近い効果が期待できる。

 

これまで肺炎が悪化した場合は、のどの奥まで管を入れる人工呼吸にすぐに移行していた。より重症まで対応できるものの、麻酔で意識をなくすため筋力が落ち、長期のリハビリが必要になるなどの課題もある。

 

ネーザルハイフローは人工呼吸と、従来式の酸素療法との中間的な位置付けにあたる。

厚生労働省のコロナ治療の手引にも今年5月26日、新たに加えられた。

 

「病室から妻や孫と電話ができて安心できた」

 

新型コロナで肺炎が悪化し、神戸市立医療センター中央市民病院でネーザルハイフローの治療を受けた60代の男性はそう話す。

 

4月上旬に同院に搬送され、人工呼吸も検討されたが、ネーザルハイフローで治療できると判断された。

 

装着直後は悪夢にうなされ、男性は「生死の境をさまよった」。

それでもステロイドの投与も受け、2~3日でだるさは和らいだ。

 

その後は携帯電話で孫たちと話したり、ゼリー食を食べたり、テレビを見たりしながら療養。

1週間で通常の酸素療法に移行し、1カ月で退院できたという。

 

「人工呼吸ならもっと心配をかけたかもしれない」と振り返る。

 

患者さんにとっても医療現場にとっても人工呼吸に比べて負担が小さいのが特徴で、全国的に広がってきた。

 

同院では昨年11月以降、人工呼吸相当の一部でネーザルハイフローを導入。

80人以上が治療を受け、集中治療室で過ごす日数が短くなるなどの効果が出た。

 

国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)でも昨年4月から活用。

重症状態で運ばれてくるほとんどの患者にこの療法を施している。

 

人工呼吸を前提に転院してきた重症患者でも、意識を保ったまま回復できる例も多いという。

医師や看護師が24時間注視する人工呼吸に比べ、必要な人手が3分の1に減る利点もある。

 

残念ながら回復に至れない場合もあるが、最後まで家族と会話ができるなど多くの人にかけがえのない時間を残せる療法だ。

 

日本呼吸器学会が全国の専門施設に調査したところ、ネーザルハイフローの実施施設は昨年6月の12%から、今年2月には49%に増えた。

実施した施設の85%が治療手段として有効な印象があったと答えた。

 

今夏の第5波でも利用が拡大し機器が入手しづらい状態になっているという。

 

肺に大量の酸素を送り込むため、口や鼻からウイルスを含む飛沫が飛んで院内感染につながる恐れはあるが、患者がマスクを着けたり、空気が外に漏れない陰圧室で使用したりすれ

ば、リスクは下げられる。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.8.22