縮む寿命、コロナ爪痕 欧米で第2次大戦以来の大幅低下
新型コロナウイルスの感染拡大によって、欧米で伸び続けてきた平均寿命が第2次世界大戦以来の大幅なマイナスになる見通しとなった。
これだけ多くの国が同時に寿命を縮めるのは史上まれだ。
戦争を除けば、最近の平均寿命は順調に伸びてきた。
人類の歩みは止まってしまうのか。
人類は死に至る病を科学技術の力で抑え、食料や生活環境を充実して長寿につなげてきた。
そこに新型コロナが待ったをかけた。
世界で450万人以上の命を奪った未曽有の災禍は、現代社会を揺るがしただけでなく、人類の歴史においても大きな傷痕を残した。
英オックスフォード大学などのチームは人口統計データや新型コロナの死亡率などから、欧州27カ国とチリ、米国の2015~19年の傾向と、感染が拡大した20年の平均寿命を比べた。
女性は19年にブルガリアが78.6歳と短く、スペインは86.5歳と長かった。
20年は様相が一変した。
19年より順調に伸ばしたのはフィンランド(0.01歳)とデンマーク(0.07歳)、ノルウェー(0.18歳)だけ。
残りはすべて低下した。
多くの国は20年が15年よりも低く、過去5年の伸びが帳消しになっていた。
男性は19年にリトアニアの71.4歳からスイスの82.2歳の間だった。
20年に更新できたのはデンマーク(0.05歳)、ノルウェー(0.18歳)のみだった。
平均寿命は、その年に生まれた0歳児が平均で何歳まで生きられるかを統計から予測した値だが「その年の死亡状況を指標にした究極の健康指標」。
人々の健康状況が以前よりも良くなっているか悪くなっているかがわかる。
コメント
新型コロナは数年以内に終息してしまえば、20年とその数年後に出生した子供の実際の平均寿命は変わらないことになるはずです。
これは数年続く感染症も戦争でも同様です。
「平均寿命」自体の限界かも知れません。
国別にみるとスペインやイタリアなどが第2次世界大戦以来最大のマイナス幅になる一方で、ノルウェーやデンマークなど北欧の一部はマイナスを逃れた。
研究チームは「強固な医療システムや(都市封鎖など政治的な)初期の介入が成功したのではないか」と分析した。
深刻だったのは米国だ。
全29カ国で最も平均寿命が縮まった。
女性が1.65歳、男性が2.23歳も短くなった。
分析では女性よりも男性の方がマイナス幅が大きくなる傾向にあった。
新型コロナは男性の方が重症化しやすい。
新型コロナの影響が長引けば、もともとある男女の差がさらに広がる恐れがある。
新型コロナは高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化しやすい。
それだけに社会の問題をも浮き彫りにする。
研究チームは米国が最大の下げ幅となった理由に、基礎疾患を持つ60歳未満の多さや、貧富の差による受診機会のばらつきなどを挙げた。
米疾病対策センター(CDC)が別にまとめた暫定結果では、女性が1.2歳、男性が1.8歳短くなっている。
第2次世界大戦の影響を受けた1943年(前年比2.9歳減)以来、最大の下げ幅だった。
CDCは薬物過剰摂取による死者の増加も影を落とすとみる。
米国では20年、前年比30%増の9万3千人以上が薬物の過剰摂取で死んだ。
コメント
「薬物過剰摂取」の内容、つまり薬害なのか麻薬などの乱用薬物なのかに触れないと、読んだ人をミスリードしてしまいます。
今回の論文で日本は取り上げていない。
厚生労働省によると、日本は20年も平均寿命が伸びている。
女性が87.74歳、男性が81.64歳で、過去最高だった。
新型コロナで亡くなる確率は女性が0.20%で男性が0.28%。
がん、心疾患、脳血管疾患の3大死因でなくなる確率は約半数だった。
日本は「手洗いや消毒でインフルエンザなどによる死亡者が減ったことが、平均寿命の更新の一因だろう」と専門家はみる。
コメント
新型コロナ流行当初より現在は手洗いの回数はめっきり減りました。
これは私個人のことかも知れませんが、皆さんはどうですか。
そもそもインフルエンザも新型コロナウイルスも、圧倒的に飛沫感染が主体です。
ノロウイルスなどでは、手洗いや消毒がきわめて有効ですが、インフルエンザなどを同列にしていいのか、少々疑問に思います。
ただし、日本も21年は(感染力が強いタイプの)新型コロナによる死者が増えた。
受診や検診控えの影響も出て、平均寿命が短くなる可能性はある。
人類の平均寿命は足踏みをしてしまうのか。
論文では「今後も感染者の発生を繰り返し、他の病気の治療の遅れや経済の混乱が続けば、平均寿命が低迷する可能性はある」としている。
人類は120歳ぐらいまでは生きるとする専門家の見方があった。
これほどの長寿が幸せをもたらすかどうかは意見が分かれるが、新型コロナの影響を受けた人類の今後に注目したい。
平均寿命 0歳の平均余命と同義
その年に生まれた0歳児が平均で何歳まで生きられるかを統計から予測した数値。
1年間に死亡した人の年齢を平均したものではない。
平均余命は各年齢であと何年生きられるかを示した数値で、平均寿命は0歳の平均余命のことだ。
死亡状況が変わらないと仮定して計算しており、数値は年ごとに更新される。
ある年の0歳の平均余命(平均寿命)が85歳としても、60歳の平均余命は25歳ではないことは注意が必要となる。
数字の上では、年を重ねるにつれて平均寿命よりも長く生きていくことになる。
例えば、60歳の人は25年を超えて生き続ける。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.10.10