ファイザー「推奨」を転換 専門家「根拠不十分」

ファイザー「推奨」を転換 専門家「根拠不十分」、交差接種に懸念も  

新型コロナウイルスのワクチンについて、10代と20代の男性に米ファイザー製を推奨する方向で調整していた厚労省は15日、専門家からの異論を受けて方針を変えた。

モデルナ製で接種後の心筋炎などの報告頻度が高いことを理由にしたが、「推奨」という言葉を使うには根拠が不十分とされた。

1回目にモデルナを打った人は希望すれば、ファイザーを選択できると広報するという結論となった。

 

「10代と20代の男性については、ファイザー社ワクチンの接種を推奨することとしてはどうか」。

厚労省は専門家の部会で、国内外のデータを示して方針を示した。

 

3日までの集計によると、心筋炎や心膜炎の100万人あたりの報告頻度は、男性の場合、モデルナでは10代で28.8人、20代で25.7人。

一方、ファイザーではそれぞれ3.7人、9.6人だった。

スウェーデンでは30歳以下に、デンマークでも18歳未満にモデルナの接種を一時停止していると報告した。

 

しかし、専門家の委員からは、ファイザーを推奨するほどの根拠は不十分だとして慎重な意見が相次いだ。

心筋炎などに関するデータは、ファイザーとモデルナの接種時期や対象者が異なるため、直接的な比較は難しい。

スウェーデンデンマークの判断の根拠となるデータも不明だ。

 

加えて同じ「mRNAワクチン」というタイプのファイザーでも心筋炎などが起きており、専門家からは「ファイザーでも心筋炎を起こすおそれがある。現状のデータだけでどこまでのことが言えるのか」「推奨という言葉は強い」との意見が相次いだ。

 

いずれのワクチンも打たないよりも打つほうが利益は大きい。

心筋炎や心膜炎は新型コロナに感染した場合にも起き、国内の報告頻度は15~39歳で100万人あたり834人。

これに対し、二つのワクチンはいずれも心筋炎などが起きてもごくまれで、ほとんどが軽症という。

 

2回目に他社ワクチン「自治体が混乱」

部会では、接種現場の混乱や1回目と2回目で別の種類のワクチンを打つ「交差接種」への懸念も出た。

 

10代、20代の8割が2回接種を受けると仮定すると、今後、この年代の男性に最大650万回接種する計算になる。

1回目に職場や大学でモデルナを打った人が2回目の予約を変更して自治体でファイザーを接種するケースが続出することが想定され、委員からは「現場の自治体が混乱する」「行政は非常に困るだろう」との指摘が相次いだ。

 

交差接種は医学的な理由があれば国内でも例外的に認められているが、1回目にモデルナ、2回目にファイザーを打つ組み合わせについて厚労省は「心筋炎のリスクがどうなるか詳細な報告は把握していない」と説明。

「実績がない中で推奨まで踏み込めるのか」との意見が出た。

 

こうした指摘を受け、厚労省は方針を変更。

10代と20代の男性について、ファイザーを1、2回目いずれでも「選択できる」と広報していくことにした。

1回目にモデルナを打った人も希望すれば、ファイザーを打てるようにする。

若年男性向けに心筋炎について説明するリーフレットもつくった。

接種後4日程度の間に胸の痛みや動悸、息切れ、むくみなどの症状がみられた場合は速やかに受診するよう呼びかけていく。厚労省

ファイザーが足りなくなれば追加配分する方針だ。

 

海外での接種の一時停止の動きについては、欧州連合の専門機関、欧州医薬品庁(EMA)の分析はまだ出ていない。

新型コロナの流行状況は国や地域によっても違うこと、もともとワクチン接種後に心筋炎が報告される頻度はごく低いことを踏まえて考える必要がある。

最終的には、接種するかどうかは一人一人が判断するもの。

日本政府は、国内での心筋炎の報告頻度や、海外の方針など、判断の材料になる情報を積極的に共有することが求められる。

 

コメント

今回の交差接種については、ワクチンの副反応の面からの議論ばかりなのが気になります。

そもそも交差接種はワクチン専門家の間では「邪道」ないしは「以ての外」とされてきました。

交差接種の有効性の検証は時間がかかるため、今回は間に合いません。

しかし、ワクチン専門家と名乗るかぎり、理論上でも結構ですから、交差接種そのものが有効性について、本来の目的である予防や重症化抑制に効果が劣らないか(非劣性)について語るべきです。

ワクチン接種による心筋炎が、頻度が少なくかつ軽症が多いということならば、副反応ばかりを針小棒大に取り上げて、効果を無視するならば本末転倒です。

つい最近まで、モデルナ製がファイザー製より有効性において優るという風潮でした。

専門家の議論が副反応ばかりを論じるのは、一つのボールにワーッと群がる子どものサッカーみたいです。

「木を見て森を見ず」ではいただけません。

専門家も、「虫の目」も大切ですが、「鳥の目」も忘れないでいた

だきたいものです。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2021.10.15