(新型コロナ)ごくまれに心筋炎

(新型コロナ)ごくまれに心筋炎、接種はリスク? 厚労省「メリットが上回る」

新型コロナウイルスワクチンの接種後、若い男性でごくまれに心筋炎や心膜炎が起きることが報告されている。

米モデルナ製で比較的多く、厚生労働省は10代、20代の男性は1回目にモデルナをうった場合も2回目は米ファイザー製を選べるとして、引き続き接種を呼びかけている。

接種のメリットとリスクをどう考えればいいのか。

 

心筋炎は一般的に、心臓の筋肉に風邪などのウイルスが感染して炎症が起き、心筋の収縮不全や不整脈などが起きる病気だ。

発熱や悪寒など風邪に似た症状が出た後、胸の痛みやだるさ、息切れ、脈の異常などが症状としてあらわれる。

 

心筋の周りの膜である心膜だけに炎症が起きる場合は心膜炎という。

m(メッセンジャーRNAワクチンと呼ばれるタイプのコロナワクチンの接種後にも心筋炎・心膜炎がごくまれに起きることが、国内外で報告されている。

 

比較的、モデルナで報告が多い。

厚労省によると、10月24日までの集計で、接種後に心筋炎・心膜炎が疑われた事例の報告頻度は、100万人あたりで、男性の場合、モデルナでは10代で60.49人、20代で39.63人。

ファイザーではそれぞれ7.66人、9.48人だった。

女性の場合、モデルナでそれぞれ2.12人、1.91人、ファイザーでは1.97人、1.56人だった。

 

1回目より2回目の接種後に、高齢者よりも思春期や若年成人に、女性よりも男性に、より多くの事例が報告されている。

 

ただ、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎は発症しても軽症であることが多いとされる。

厚労省によると、10月24日までの集計で、心筋炎などが疑われる症状が出た10~30代男性で、改善・回復が確認された割合は、ファイザーが84%、モデルナが88%だった。

 

一方、新型コロナの感染後にも心筋炎・心膜炎が起きることが報告されている。

国内の10~29歳の男性入院患者3358人のうち心筋炎などの報告があったのは3人で、報告頻度は100万人あたり893人とされる。接種後の報告頻度よりはるかに多く、厚労省は「接種のメリットはリスクを上回る」としている。

 

mRNAワクチン接種後の心筋炎は、接種が先行したイスラエルなどから報告されていた。

各国で接種者が増え、より詳細に分析できるようになると、ファイザーよりもモデルナの方が、心筋炎などが疑われる事例の頻度が高いという報告が相次ぎ、対応をとる国も出てきた。

 

スウェーデンは10月、予防的な措置として、30歳以下全員に対して、モデルナの接種を一時停止した。

フィンランドも同月、30歳未満の男性にはファイザーのみを提供するとした。

11月に入り、ドイツやフランスも、30歳未満にはファイザーを推奨することにした。

 

国内では、10月15日に厚労省の専門家による部会で、国内外のデータや海外の状況をふまえ、対応が検討された。

 

厚労省は当初、10代、20代の男性にファイザーを「推奨」する方向だったが、ファイザーが主に高齢者向けに使われたのに対してモデルナは職場や大学などで比較的若い層に使われるなど接種対象者が異なり、頻度を比較するのは難しい。

専門家からは、1回目にモデルナ、2回目にファイザーをうった実績が海外でも乏しいことも指摘された。

結局、ファイザーを「推奨」はせず「選択できる」と広報するにとどめた。

本人が希望すればモデルナを続けてうつこともできる。

 

日本循環器学会は7月、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の発症率は、コロナ感染後のそれと比較して極めて低く、大半は軽症であることなどから、「接種による利益は接種後の急性心筋炎・心膜炎の危険性を大幅に上回る」として、接種を推奨する声明を出している。

 

同学会でコロナ対策特命チームの委員長を務める佐賀大の野出孝一教授(循環器内科)は「健康な人がワクチンをうって心筋炎になるのと、コロナに感染して病気の人が心筋炎になるのとは事情が異なることはくむ必要がある。接種は本人が決めることだ」としつつ、「コロナ感染の合併症は心筋炎だけではない。肺や肝臓、腎臓、血管などに障害が出たり、記憶障害や味覚障害が残ったりする。慢性期の状況まで考えると、接種のメリットは大きい」と話す。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2021.11.21