コロナ飲み薬、年内にも 米メルクが日本で承認申請へ
新型コロナウイルスの飲み薬の実用化に向けた動きが進む。
米製薬大手メルクの治療薬「モルヌピラビル」が英国で承認された。
同社は米国では緊急使用許可を申請した。
日本政府は160万人分の供給契約を結び、ワクチンに続く対策の切り札と期待する。
ウイルスの増殖を抑える治療薬や候補薬には大きく3つのタイプがあり、実用化が進んで供給体制が整えばコロナ禍の収束に役立つと期待されている。
新型コロナウイルスは体内に入ると細胞内で急激に増殖する。
症状が進行するころにはウイルスの量は減り始めるが、免疫が暴走して過剰な炎症反応が起きると重症化する。
飲み薬で感染初期にウイルスの増殖を抑え、重症化を防ぐことが期待されている。
ワクチンに加えて経口薬による重症化予防が軌道に乗れば、コロナ禍の抑え込みに一定の道筋が見えてくる。
注目の飲み薬は、メルクが米バイオ企業リッジバック・バイオセラピューティクスと共同開発したモルヌピラビルだ。
臨床試験(治験)では、重症化リスクのある軽症・中等症患者に、発症後5日以内に投与したところ、入院・死亡のリスクが約30%下がった。
11月4日に世界で初めて英国で承認された。
重症化リスクのある軽症・中等症の患者が対象で、発症から5日以内にできるだけ早い服用を推奨している。
メルクは日本国内でも承認申請をする予定だ。
政府と160万人分の供給契約を結んだ。
21年内に世界で1000万回分を生産し、22年末までに生産量を2倍以上に引き上げるという。
政府は年内にも特例承認をする方針だ。
薬には3パターン
モルヌピラビルのように、新型コロナウイルスの増殖を抑える薬には、大きく分けて3つの仕組みがある。
1つ目は人の細胞へのウイルスの侵入を防ぐ薬だ。
承認されている抗体医薬の「ソトロビマブ」や「カシリビマブ・イムデビマブ」があたる。
ただこれらは点滴薬だ。
2つ目は、ウイルスが増殖する際に欠かせない遺伝情報「RNA」の複製を邪魔する薬だ。
モルヌピラビルはこの一つで、薬の成分が体内でRNAをつくる物質に似た構造になり、ウイルスが増殖時に誤ってRNAの複製に使うと複製が失敗する仕組みだ。
RNAの複製を抑えるのは、米ギリアド・サイエンシズの既存薬「レムデシビル」と同じだ。
こうした仕組みはエイズ治療薬で30年以上使われてきた実績があり技術的な完成度は高い。
米バイオ企業、アテア・ファーマシューティカルズなどが開発している治療薬候補「AT-527」もこのタイプにあたる。
3つ目の仕組みは、ウイルスに欠かせないたんぱく質の合成を阻害する薬だ。
ウイルスはRNAをもとに自身のたんぱく質を人の細胞につくらせる。
このたんぱく質をつくらせなければウイルスの増殖を抑えられる。
ファイザーの新薬候補「PF-07321332・リトナビル」は最終段階の治験が進んでおり、日本も参加している。
治験の中間解析では、発症後3日以内に患者に投与したところ、投与していない人に比べて入院や死亡のリスクが約9割減った。
ファイザーは米国で緊急使用許可を申請しており、早ければ年内に投与が始まる可能性がある。
塩野義も最終段階
塩野義製薬は新薬候補「S-217622」の初期の治験を7月に開始。
9月に最終段階の治験に入った。
21年中に製造販売の承認申請を目指す。22年3月までに国内で100万人分を生産する計画だ。
海外での治験も視野に入れており、米食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)と協議をしている。
抗体医薬は製造に特殊な設備が必要で量産が難しい。一方、飲み薬は化学合成できるので既存の工場でも量産できる。複数の飲み薬が実用化されれば供給体制が整いやすくなり、医療機関の負担軽減につながると期待されている。
*既存の治療薬
国内では5種類が使用を認められている。
肺炎患者向けのレムデシビル、抗体医薬の「ソトロビマブ」「カシリビマブ・イムデビマブ」。
さらに中等症・重症を対象とするステロイド薬「デキサメタゾン」と抗炎症薬「バリシチニブ」だ。
ステロイド薬は免疫の過剰反応を抑える。
ただ酸素吸入の必要のない段階で投与すると、死亡率が上がるとの報告もある。
中外製薬が開発した関節リウマチなどの薬「トシリズマブ」は過剰な免疫反応を抑える。
世界保健機関(WHO)は重症患者への投与を推奨している。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2021.11.29
<関連サイト>
新型コロナウイルスの増殖を抑える仕組み
https://aobazuku.wordpress.com/2021/12/04/新型コロナウイルスの増殖を抑える仕組み/