飲み薬、期待と課題 オミクロン株にも作用 重症リスクある人限定
新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐために開発された「モルヌピラビル」が、日本でも特例承認された。ワクチンが効きにくいとみられるオミクロン株が広がる中、ワクチンとは違う仕組みでウイルスの広がりを抑える飲み薬に期待が高まる。
ただ、供給量が限られる中、感染対策としてどこまで強力な武器となるかは未知数だ。
オミクロン株はウイルスが細胞に感染するときに重要なたんぱく質に多くの変異があり、感染力を高めていると考えられている。
モルヌピラビルはウイルスが細胞に感染した後に増殖を抑える働きがあり、オミクロン株の影響は小さいとみられている。
米製薬大手メルクは実験の結果として、モルヌピラビルがオミクロン株に対しても抗ウイルス作用を示した、と発表している。
軽症者にも使える薬としてはこれまで、抗体カクテル療法とも呼ばれる「ロナプリーブ」などがあった。
ただ医療機関での点滴や注射が基本となるうえ、「ロナプリーブはオミクロン株に対しては効力が下がる」と開発した米企業が発表している。
飲み薬は、処方を受ければ自宅で治療が続けられる。
モルヌピラビルは、臨床試験(治験)の中間結果で、重症化リスクの高い人が入院したり死亡したりするリスクは半減するとされていたが、最終結果では3割減にとどまった。
一方、やはり飲み薬として米ファイザー社が開発したパクスロビドは、同様のリスクを88%下げたと発表。
単純比較はできないものの、パクスロビドへの期待感の方が高くなった。
米食品医薬品局(FDA)は22日、モルヌピラビルに1日先行する形で緊急使用許可を出した。
日本でも近く、承認申請されるとみられる。
岸田文雄首相は22日、モルヌピラビルが承認されれば「週末より全国に20万回分の配送を開始し、来週から使えるようにする」と述べたが、仏政府はモルヌピラビルの発注を取り消し、パクスロビドの調達を進める方針だ。
各国でパクスロビドの「奪い合い」となる可能性が出てきた。
いずれの薬も対象となるのは、高齢者や肥満、糖尿病など、重症化するリスクをもつ人たちだ。
どこでも薬を受け取れるわけではなく、都道府県が選んだ医療機関や薬局で処方される。供給量は限られ、当面はインフルエンザのタミフルのように幅広い人たちにまでは行き渡らない。
薬を飲んでも、発症から時間がたち、ウイルスが大量に増えてしまった段階では、あまり効かなくなると予想される。
効果を最大限に引き出すため、発症したらなるべく早いタイミングで飲むことが重要だ。症状が出たらいち早く検査や診断が受けられるような体制整備が急がれる。
モルヌピラビルは動物実験で、胎児の発達に影響がみられた。
このため先行して使えるようにした英国や米国も、妊娠女性には推奨しないことにしている。
効果や安全性がどの程度なのか、薬に耐性をもつウイルスが出現しないか。
薬の使用が始まってからも、こうした点について注意深くみていく必要がある。
■ 国内勢も開発推進
新型コロナ用の飲み薬は、国内勢も開発を進めている。
塩野義製薬が9月から2千人を対象に最終段階の治験を進めていて、年内の承認申請をめざしている。
すでに生産を始めており、来年3月末までに100万人分を用意する計画だ。
20日には「オミクロン株に対しても効果が期待できる」と発表した。
一方、中外製薬は飲み薬の開発を終了すると今月発表した。
親会社のロシュ(スイス)と米バイオ企業と共同で治験をしていたが、十分な有効性が得られなかった。
富士フイルムホールディングスの抗ウイルス薬「アビガン」は、新型コロナ向けの開発の継続が不透明な状況になっている。
米国などで最終段階の治験を進めていたカナダ企業が11月に、「統計上の有意性を確認できなかった」と発表。厚生労働省の審議会は昨年12月に継続審議としているが、開発は岐路にさしかかっている。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2021.12.25