新型コロナの全変異株に有効なアルパカ由来の抗体

新型コロナの全変異株に有効なアルパカ由来の抗体、京大などが開発
京都大学(京大)、大阪大学(阪大)、COGNANO(コグナノ)、横浜市立大学(横浜市大)の4者は2022年7月14日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の「懸念される変異株」であるオミクロン株(B.1.1.529, BA系統)を含むすべての変異株に対して、これまで使用されてきたどの治療用抗体製剤よりも中和活性が高い「ナノボディ抗体」を創出したことを発表した。

詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。

SARS-CoV-2の現在の主流となっているオミクロン株は、アルファ株からデルタ株までの、これまでの4種類の懸念される変異株と比べ、スパイク(S)タンパク質の変異箇所が圧倒的に多く、以前感染した人やワクチン接種者ですら感染しやすいという特徴を持つ。
また、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)には、その出現前に開発された治療用抗体の大半が効かなくなることも報告されている。

そこで研究チームは今回、免疫したラクダ科のアルパカの遺伝子(アルパカ抗体)から最適な創薬候補をコンピュータで選択する、コグナノが独自開発した技術をベースに、オミクロン株を含む全変異株に対し、これまで使用されてきたどの治療用抗体製剤よりも中和活性が高いナノボディ抗体を開発することにしたという。

実際に樹立されたナノボディ抗体をクライオ電子顕微鏡にて解析したところ、ヒトの抗体と比べておよそ10分の1と小型で、SARS-CoV-2の表面に存在するSタンパク質の深い溝をエピトープ ( 抗体が結合する生体分子のある特定の部位 ) にしていることが示されたとする。
このエピトープはヒトの抗体が到達できない部分であり(論文中では、「クレバス」または「隠された裂け目」と呼称)、ウイルスの変異がほとんど見られない領域だという。

また、オミクロン株は、ワクチンによって誘導された中和抗体や治療用抗体製剤から逃避する特徴も有しているが、今回の研究で創られた抗体は、変異がほとんど見られない領域に結合することから、これまでに報告されたいずれの中和抗体よりも高い有効性が示されたとする。

さらに、ナノボディ抗体は環境耐性が高く、全SARS-CoV-2変異株を検出することが可能であるため、下水など環境中のウイルスの濃縮やモニタリングにも利用することができるという。

加えて、ナノボディ抗体は遺伝子工学による改変がしやすいことから、ヒト抗体よりも数千倍安価に生産することが可能であることから、今回の研究で得られた知見に基づき、より中和活性の高い改変ナノボディ抗体を作成し、臨床応用を目指すとしている。

なお、京大、阪大、コグナノでは、さまざまな感染症について、ウイルス学的な解析や、中和抗体やナノボディ抗体の構造解析についての研究に取り組んでいるとしており、具体的には新型コロナ以外に、エイズウイルス(HIV)、ネコエイズウイルス、サル痘などとしているほか、がん免疫を明らかにするための研究も推進しているとしている。 

参考・引用一部改変
マイナビ・ニュース 2022.7.15
https://www.excite.co.jp/news/article/Cobs_2447733/?p=2