新型コロナ「BA.3.2(セミ変異株)」
2024年後半に出現し、2026年現在世界的に注目されている変異株で、正式名称は「BA.3.2」というオミクロン株の仲間。
2021年に大流行したオミクロン株の初期に「BA.3」という系統があったが、これは2022年初頭には世界中から姿を消した。
コロナの変異ウイルスの多くは、現れては消えるまでのサイクルが非常に短く、通常は数週間から数ヵ月しか流行しない。
かつて猛威を振るったオミクロンのBA.1も、数ヵ月で別の変異ウイルスに置き換わった。
しかし、絶滅したはずのこのBA.3の子孫が、数年間の空白期間を経て、2024年11月に南アフリカで突然発見された。
地下深くで数年間じっと過ごし、ある日突然地上に大量に姿を現す昆虫の「セミ、Cicada(シカダ)」に似ていることから、研究者たちの間で「セミ型(Cicada variant)」という通称(ニックネーム)で呼ばれるようになった。
このウイルスは、免疫力が低下した人の体内で数か月から数年という長い時間をかけて持続的に感染し続け、その間に一気に多数の変異を獲得した「塩躍的進化」を遂げたと考えられている。
初期の新型コロナウイルスと比べて全体で100箇所以上、ウイルスの感染の鍵を握る「スパイクタンパク質」だけでも70~75箇所もの変異を持っている。
この「セミ」は、現在のワクチン抗原(例:JN.1など)と比べて、スパイクタンパク質の遺伝子配列に70~75程度の置換・欠失などの変化があると報告されている。こうした変化のため、これまでの感染やワクチンで得られた抗体による中和が低下しうる(免疫回避の可能性がある)と考えられ、監視が続けられている。
これは、最近まで主流だったJN.1株やLP.8.1株の変異数(約30~40箇所)と比べても倍近い驚異的な数字だ。
また、病原性に関わる「ORF7」や「ORF8」という遺伝子領域がごっそり抜け落ちている(870塩基対の欠失)ことも分かっている。
南アフリカで発見された後、このセミ型は、ゆっくりと水面下で世界中に広がり、2026年初頭の段階で世界23カ国以上で確認されている。
WHO(世界保健機関)のデータによると、世界全体の検出割合は2026年2月の9.95%から、約1ヶ月後の3月には19.9%へとほぼ倍増している。
特にヨーロッパ(デンマーク、ドイツ、オランダなど)では全ゲノム配列の約30%を占める急激な増加を見せており、アメリカでも下水調査などを通じて徐々にシェアを伸ばし、2026年3月時点で0.55%に達していることが確認されている。
このように、「セミ型」はずっと絶滅したはずの子孫株が今頃になって急速に拡大を見せている、ちょっと変わった変異株ということになる。
A.3.2セミ変異株という特定の定義は、 現在の医学文献や公衆衛生機関の公式発表では確認されていない。
一般的に、SARS-CoV-2の変異株は、 世界保健機関 (WHO) によって懸念される変異株 (VOC;Variant of Concern)) や注目すべき変異株 (VOI;Variant of Interest) として分類され、 アルファ株、 ベータ株、 デルタ株、 オミクロン株などが特定されているが、 BA.3.2セミ変異株という用語は一般的ではない
WHO(世界保健機関)の発表でも、「重症化しやすくなった」「入院や亡くなる人が増えた」というデータは出ていないとされている。
症状はこれまでのオミクロン株系統(JN.1など)と大差なく、主に以下のような症状が中心となる。
呼吸器症状: 激しい喉の痛み(咽頭痛)、咳、鼻水、鼻づまり
全身症状: 発熱、強いだるさ(倦怠感)、頭痛、筋肉痛や関節痛
その他: 吐き気や下痢などの消化器症状(一部で報告)
このウイルスには一部の遺伝子(ORF8など)が丸ごと欠け落ちているという特徴がある。
過去の研究では、この遺伝子がないと「症状が軽くなる」可能性が指摘されているが、BA.3.2で本当に症状が軽くなるのかはまだ調査中。
・その他の特徴
BA.3.2の検出は子供に多く見られる
参考 「適応度のトレードオフ」
コロナウイルスが人間の細胞に感染するためには、細胞の表面にある「ACE2」という受け皿にくっつく必要がある。
BA.3.2は免疫の監視を潜り抜けるように変異を多く持っているため、スパイクタンパクの構造が大きく変わってしまい、逆にACE2への結合のしやすさや細胞への侵入のしやすさについては、大きく落ちている可能性があると指摘されている。
このように、ウイルスの進化では「免疫回避」と「感染のしやすさ」の間で「トレードオフ」が生じることがあるという考え方がある。
少なくとも現時点では、WHOの初期評価などで、この変異ウイルスが重症化や入院、死亡のリスクを明確に増加させるという一貫したデータは見られない、とされている。
また、ワクチンについては、抗体による中和が低下し得る一方で、重症化に対する防御は一定程度維持されることが期待されている。
したがって、必要以上に恐れる必要はない。