がん代替療法

2010年3月26日のNHKのTV番組「追跡!A to Z」で、「がん代替療法」がとりあげられました。

「がん代替療法」と、どう向き合うか?

藁にもすがる思いの「がん患者」が利用する「代替療法」。しかし、嘘の情報を信じて手遅れになるケースも
がん患者が利用する健康食品や、様々な治療法――通常の医療とは別の、いわゆる「代替療法」をいま、日本のがん患者の2人に1人が利用し、市場規模は1兆円に及ぶと言われている。

しかし、効果が科学的に証明されていない代替療法も少なくなく、どの情報を信頼すればいいのか、患者たちは大きな悩みを抱えている。
さらに見過ごせない問題が、「がんが治る」と言って金儲けをする、悪質業者の存在だ。

「がん代替療法」を巡って、いま何が起きているのだろうか?
患者の不安にどのように向き合っていけばいいのだろうか?


代替療法を手探りで探す患者たち
千葉県に住む鈴木清子さん(50)。一昨年、卵巣がんが見つかった。
手術を受けたものの、がんはリンパ節や肝臓に転移。「何とか治す方法を探したい」。夫の亨さん(58)は、友人の口コミや本を頼りに、様々な代替療法の情報を集めてきた。

友人の薦めで購入した、一箱10万円のお茶。
さらに、ガン細胞を死滅させるという、保険が適用されない治療法。
取材した当時、他にも総額160万円かかるという、別の代替療法の検討を始めていた。
亨さんは、「安くはないが、これで生還できると言うことであれば、安いのかな」と語っていた。

しかし今年初め、清子さんは息を引き取った。25年連れ添った妻を看取った亨さん。
この1年半の闘病生活は、代替療法を手探りで探し続けた日々だった。

代替療法」に頼る患者たちは、大きな悩みも抱えている。
患者らを対象に開かれたセミナーでは、「インターネットで色々調べても、それがどこまで信用できるのか分からない」「良いとか悪いとか情報が色々ある。本当のところどうなのかを知りたい」などの不安の声が次々寄せられた。

では、患者に対して、代替療法に関する情報はどのように発信されているのか?
代替療法の中でも利用者が最も多い、健康食品の企業を訪ねた。
社員50人、年商20億円、「アガリクス」で作られた健康食品を扱う企業。
これまで15年間、製品の安全性や有効性に関する臨床試験を続けているが、効果については、まだ結論が出ていない。

健康食品は医薬品ではないため、「がんに効く」と言って販売することは、薬事法で禁止されている。
そのためこの企業でも、営業現場では「効果」に関することは一切言及せずに、薬事法に抵触しない範囲で、製品の優位性を客に分かってもらえるように、できる努力を続けているという。


がん患者を狙った悪質業者も
しかし一方で、インターネットを見ると、根拠がないのに効果を謳った、悪質な広告もあふれている。
「がんが治る」という嘘の情報を信じ、通常の治療をやめてしまって患者が死亡するという事件も起きていた。

80代の男性。娘をがんで亡くした。
女性は当時45歳。健康診断で乳がんと分かった。
この時女性が頼ったのは、医師ではなく、「独自の方法でがんを治す」と謳う治療院だった。
しかしそれは、効果がないニセの治療法で、経営者の男は詐欺の罪で有罪が確定し、いまは服役している。

ではなぜ、女性は嘘の情報を信じてしまったのか?
女性は当時、結婚を控え、乳房を残したいと強く願っていた。
しかし、診察した病院の医師からは、「乳房を摘出しないと助からない」と告げられる。
この時、「人生が終わってしまったかのようなショックを受けた」と、女性は手記に綴っている。

何とか切らずに治す方法はないのか。
女性は1人部屋にこもり、インターネットの検索に明け暮れた。
たどり着いたのが、治療院のホームページ。
「切らない、苦しまない、再発しない」で「絶対に治すことができる」と、患者の心をつかむ言葉が並べられていた。
精神的に追い詰められていた女性には、それが「救いの神」のように見えてしまったのだ。

しかし結局、がんは脳や肝臓に転移し、女性は帰らぬ人となった。
当時、女性の民事裁判を担当した弁護士は、「医学的知識を持ち合わせない一般人には、この治療法が明らかに間違っているということを明確に判断することができない。その結果、ちゃんとした治療を受ける機会を奪われ、生命に取り返しのつかないダメージが与えられてしまっている」と指摘する。

すがる思いで「代替療法」を利用する患者に対し、適切な情報が届いていない現状。さらに、がん患者を狙った、違法なビジネスの摘発も相次いでいる。

警視庁では、インターネット上の違法な販売を捜査する「サイバーパトロール」を日夜行なっているが、ネットでの販売は、住所が実在せず、業者を突き止めるのが難しいケースも少なくない。
また、悪質業者側も薬事法の網を巧みにすり抜け、ビジネスを拡大させている。
捜査はしばしば、いたちごっこになる。

こうした中、先月、厚生労働省に新たなプロジェクトチームが立ち上がった。
政務官を中心にした各局横断プロジェクトを作り、患者が代替療法を選ぶ際、どの情報が正しいか、見極められる仕組みを作ろうというのだ。

さらに、専門家による研究も動き始めている。
国の予算で医師らが作った、「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班。
さまざまな代替療法の効果を、科学的に検証しようとしている。


なぜ患者は、代替療法に頼るのか?
さて、この代替療法については、もう1つ大事な問題がある。
代替療法を使う患者の6割が、医者には一切相談せずに利用を決めており、中には通常の治療をやめてしまい、代替療法だけに頼った結果、失意のうちに亡くなる患者も多くいる。
実は、これほどまでがん患者が代替療法に頼る背景には、通常のがん医療が抱える問題点もある。

埼玉医科大学国際医療センター。
この病院に通う50代の乳がんの女性は、かつて、病院での治療を拒否し、代替療法だけに頼ったことがある。
きっかけは、がんの再発・転移だった。

手術や放射線治療を受けたのに完治せず、大きなショックを受けていた。
主治医が進めたのは、副作用を伴う抗がん剤治療。
しかし、女性は強い不安から、治療方針を受け入れられず、代替療法を選んだ。
抗がん剤治療を受ける受けないということで先生と押し問答になったけれど、結局治療に対する不安は解消されなかった」と、女性は振り返る。

患者が治療をやめてしまうのは、病院が患者の不安に十分寄り添ってこなかったからではないか――この病院では、これまでのがん治療のあり方を見直す必要があると考えた。

その後病状が悪化し、病院に戻って治療を再開した女性。
この時から、主治医に加え、がん専門の精神科医も診察に当たることになった。
取材した日の診察で、女性は抗がん剤の新たな副作用によって爪がはがれかけていることを訴え、治療を中断したいと訴えた。
これに対し、精神科医は、女性の不安に寄り添いながら頑張ろうと激励。

かつて治療への不安から、代替療法だけを選んだ女性。
医師が一緒に悩みに向き合ってくれることで、辛い治療を続けようと、前向きな気持ちになれるという。こうした、「患者が安心してがんの治療を受けられる環境作り」が、いま求められている。


取材を振り返って 【鎌田靖のキャスター日記】
個人的なことで恐縮ですが、私の父は13年前、胆肝がんで他界しました。
療養中は抗がん剤のほか数種類の健康食品を飲んでいました。
「がんが治るとは思わないが、万一効いてくれれば、と期待していた」と母は話しています。
ただどんな効果があったか今でもよくわからないとも言っています。
少なくとも、がんを治す効果はなかったという事実は動かしようもありません。

健康食品、マッサージ、アロマセラピー、はり、きゅうなど多くのがん患者が利用する代替療法
しかし、この問題が正面から取り上げられることはあまりありませんでした。

東北大学大学院の坪野吉孝教授は次のように言います。
「手術、放射線治療、化学療法という3大治療を『補う』ということであれば研究によって有効性が示されています。しかし、『がんそのものを治す』という効果があると科学的に証明されたものは、いまの時点ではありません。だから、通常の治療を止めて代替療法だけに頼るのは、危険なので避けて欲しいのです」

残念ながら、がんに効くというものは現時点ではないようです。
これを踏まえたうえで私たちは代替療法と向き合うしかないのです。

では、その代替療法とどうやって向き合えばいいのか。
国はこれまで、正面から応えてきませんでした。
あえて言えば見て見ぬ振りをしていたのです。
氾濫する情報の中で患者たちは1人で治療法を求めて彷徨い続けるしかなかったのです。

坪野教授によると、アメリカのがんの専門病院には代替療法センターというものが設けられ、代替療法の正確な情報を患者に提供しているそうです。

今年、厚生労働省もようやく代替療法の研究に立ち上がりました。
しかし、まだまだ十分ではありません。

「藁にもすがる気持ちで使っているんです」。
私たちが取材で会ったがん患者の多くが口を揃えて言う言葉です。

http://diamond.jp/articles/-/7702
出典 DIAMOND online 2010.3.27
版権 ダイアモンド社

<私的コメント>
坪野教授の「手術、放射線治療、化学療法という3大治療を『補う』ということであれば研究によって有効性が示されています。」という発言は読者に混乱を与えます。
『補う』とは、どういうことなのか。
話の流れは「がんの代替療法は効かない」という内容です。
もし、代替療法が効く場合があるということであれば、「どんでん返し」になってしまいます。
読者が知りたいのは、このサラリと語られたところではないのでしょうか。

「今年、厚生労働省もようやく代替療法の研究に立ち上がりました。しかし、まだまだ十分ではありません。」という部分も疑問です。
実は厚労省は、すでにこういった問題に取り組んでいるのです。


健康被害情報・無承認無許可医薬品情報●
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet.html
○無承認無許可医薬品情報(※中国製ダイエット用健康食品関連情報を除く)
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/musyounin.html
「いわゆる健康食品」による健康被害事例
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/jirei/030530-1.html

<関連サイト>
どう向き合う?がん代替療法
http://www.am096.net/miyazaki/2010/03/post-56.html
(「がん代替療法」擁護派の意見です)
追跡!A to Z がん代替医療 を見ました。
http://secondbreast.blog42.fc2.com/blog-entry-32.html
(乳腺外科医が「代替療法」に反対の立場で書いています)

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