多汗症を治したい

蒸し暑い梅雨の6月に入り、汗かきの人にはつらい季節になってきました。
体温調節に必要な範囲を超えて手のひらなどの発汗が異常に増える「多汗症」の人には特に厳しい季節です。
この「多汗症」については、電流を使った治療から日帰り手術まで、症状を軽減するための治療法の選択肢は増えています。

多汗症については、このブログでもかつて2回とりあげて来ました。


手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2009/04/04


手の汗で携帯故障も 多汗症を治したい

治せない症状の重い患者が80万人もいる。
有病率は米国人の2倍。
台湾など東アジアに患者は多い。
ただ命に関わる病気ではないうえ病気の知名度も低いため周囲から「ただの汗かき」とみられ、誰にも相談できず悩んでいる人も多い。

多汗症の重症度は自覚症状の場合、4段階に分けられる。
そのうち「発汗が我慢できず、日常生活に常に支障がある」など上位の2段階は重症だ。
着る服が限られるほか、著しい場合には多量の汗のために携帯電話やパソコンが壊れたり、ノートの紙が破れたりする。
仕事や生活に大きな支障が出て、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を大きく落とす。
厚労省多汗症を2008年に難治性疾患克服研究事業の研究奨励分野に指定した。

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政府が多汗症治療に力を入れ始めた一方、現場の治療法も多様化している。
治療を手掛ける東京医科歯科大学の横関博雄教授によれば、主な治療は3種類ある。

「発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある」など症状の軽い患者が受けるのが多いのが「イオントフォレーシス療法」という治療法。
これは手のひらなど汗を多くかく部位を水道水に浸し、10~15ミリアンペアの直流電流を約20分間流す治療法だ。

皮膚表面の汗腺の穴に水素イオンが作用し、穴をすぼめて発汗を抑える効果がある。軽
症から中程度の症状の患者の7~8割に効果があり、治療開始直後は週に2、3回繰り返す。
症状が軽くなった後は週1、2回に回数を減らす。
電流は微弱で健康に影響はないが「ピリピリと不快な電気刺激が苦手な人は、電流を弱めて治療する」(横関教授)。
保険も適用され、治療代は月に5000円程度だ。

保険は適用されないが、就寝前に塩化アルミニウムの水溶液を手のひらに塗る治療法もある。
水溶液を塗ると汗に含まれる物質とくっついて、手のひらにある汗の出口を防ぐという。
横関教授によると、数週間毎日続け、症状が軽くなった後には週1、2回に減らして効果を維持する。
手の荒れを抑えるため、ステロイド剤を併用する。

これらの治療で十分な効果が出なければ、手術で治療する選択肢もある。
手のひらに汗を出す指令を伝える交感神経を切断し、発汗を抑える治療法だ。

手のひらの発汗をつかさどる交感神経は、背骨の左右5センチほどのところを縦に走っている。
例えば右手のひらの治療の場合、わきの下に3ミリほどの小さな穴を開け、小型カメラと電気メスを挿し込んで、胸部にある神経を切断する。
入院も抜糸手術も不要で、翌日には入浴もできる。

重症者も含めてほぼすべての患者に効果がある治療法だが、気をつける必要があるのが副作用だ。
太い神経を切ると、患部以外の背中や腹部などで発汗が増える「代償性発汗」が発生する確率が高まる。代償性発汗を抑えるため、現場の医師は様々な工夫を施す。
東京病院の加賀谷正氏は「切断前に神経に電流を流し、手の血流量を調べて切るべき神経を絞り込んだり、神経の外側半分だけを切ったりする」という。

多汗症が発症する年齢は25歳以下で、思春期が中心。
中年以降には症状が軽くなることが多い。
家族歴があることも。
通常は両手、両足など左右対称の部位に出る。
多汗の部位が左右非対称の場合などは、交感神経の異常や悪性腫瘍の可能性もあり、早めに医師にかかるとよい。
脳卒中の後遺症や肥満の症状として汗を多くかくことがあるが、これは多汗症ではない。

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治療、欧米に後れ
有病率が高い半面、日本では多汗症の治療は欧米に後れをとってきた。
背景には文化的な理由もありそうだ。
横関教授は「握手をする文化がある欧米に比べ、日本では治療せずに我慢してしまうケースが多かった」と指摘する。
今夏は節電で暑さが一層厳しくなる。
悩みを抱え込まず、気軽に専門医に相談してみるのがよいだろう。
(草塩拓郎)

出典 日経新聞・夕刊 2011.6.3
版権 日経新聞

 
<私的コメント>
我が家にも多汗症の子どもがいて他人事ではありません。
医者のタマゴですが、将来ゴム手袋をはめるような外科的な専門科目は無理だと思います。
内科も循環器(心カテ検査など)や消化器(胃カメラなど)などではゴム手袋をはめます。
私としては内科を専攻して欲しいのですが、ゴム手袋とまったく縁のないのは一部の内科(神経内科、内分泌内科など)や精神科ぐらいでしょうか。

それよりもデートの時に手も握れません。



<新聞切り抜き帖>
ある日の「天声人語」より。

ベトナム戦争の最前線を命がけで取材した開高 健は、戦場を「ウソのないたった一つの場所」と書いた。作家の定義に従えば、永田町は戦場の名に値しない。しかもこのB級コメディー、制作費の大半が血税だから泣くしかない。せめて短編で終わりますように。』

出典 朝日新聞・朝刊 2011.6.2
版権 朝日新聞社


最近何だかパットしない「天声人語」にしては久々の心の琴線に触れるフレーズでした。



他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
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があります。