めまいの最新治療(中)

良性発作性頭位めまい症 治療、予防に運動が最適
めまいの中で最も多い疾患が、内耳の異常で起こる「良性発作性頭位めまい症」だ。
日常のちょっとした動作で症状が出るが、運動療法など自分でも取り組める治療法が採り入れられている。(鈴木久美子


「起き上がると、ふらふらして気持ちが悪い」。
東京都江戸川区の古川晃子さん(83)は昨年8月、こんな症状に襲われた。

家の中でも「坂があるような感じ」がして、壁や家具を伝い歩きしないと動けない。
外では道をまっすぐ歩いてるつもりなのに、次第に左右にずれていく。夫の洋服のすそをつかんで歩いた。

大病をしたこともなく、近所の内科では「暑さのせい」と診断された。
だが、秋になっても治らず、部屋でじっと横になる毎日になった。

10月になり、知人に勧められて同区の「二木(ふたき)・深谷耳鼻咽喉科めまいクリニック」を訪ねた。
検査を受けて「良性発作性頭位めまい症」と診断された。
「めまい症だなんて、びっくりした」と古川さんは言う。

「めまいの80%以上は内耳の異常からくる。その中でも60〜70%と最も多いのが、このめまいだ」と同クリニックの二木隆医師は説明する。

頭を一定の位置に動かしたとき、めまいがして吐き気を伴う。
人によって「寝ていて体を起こした」「美容院でシャンプーをしてもらうときに頭を後ろに下げた」「洗濯物を干そうと上を向いた」といった日常の決まった動作で起こる。

メニエール病と違って難聴や耳鳴りはない。
めまいが起きても次第に弱まっていくところが、脳出血など脳の異常からくるめまいと異なる。
風邪の後に起こる前庭神経炎は、頭をどのように動かしてもめまいがするところが違う。

「耳の中の引力のセンサーの故障で起こる」と二木医師。
内耳には、体が地面に対しどういった位置にあるかを感じる器官がある。
その一つの耳石器にある耳石という炭酸カルシウムの石が、はがれて三半規管に入り込み、頭を動かしたときにそれが三半規管を刺激して起こるめまいと考えられている。

「命にかかわるものではないと、まずはしっかり患者さんに説明し安心してもらう。最初はめまい止めの薬を処方するが、数日したら寝ているだけではだめ。ある程度のめまいがしても、運動することが肝心だ」

治療には運動が最適。散歩など軽い運動で、内耳に異常があってもめまいを起こさずに体が動くよう、運動機能をつかさどる小脳が働くようになるという。
約25%は再発するが、運動は再発予防にもなる。
運動療法には、ベッドなどに腰掛け、だるまが転がるように、上半身を左右にゆっくり動かす反復運動もある。

千葉県佐倉市の東邦大医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科山本昌彦医師は、
(1)寝たり起きたりの動作
(2)床と天井を交互に向く動作
(3)寝返り動作
の3つの運動療法を行っている。

 


できる運動から徐々に始め、気分が悪くなったら休む。
めまいがやんでも、再発予防のために就寝前や起床時などに行うよう勧めている。

前出の古川さんは、散歩などをして少しずつ回復。
最近はめまいはなく、一人で外出もできるようになった。

運動療法以外の治療法では、医師が患者の頭を回転させて、三半規管に入り込んだ耳石を耳石器に移動させるエプリー法という方法もある。

「うまくいけばすっきり治るが、耳石の位置を正確につかむことなどが難しく試行錯誤の段階だ」と山本医師は説明する。米国の調査では、エプリー法と運動療法で治療効果に差がないとする報告もあり、運動療法が主に行われている。

出典 中日新聞・朝刊 2010.3.12
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