視力が落ちたと思ったら

相談者のKさんは56歳で、ある上場企業の部長です。日常の事務作業では老眼鏡を使用していますが、最近夕方になると新聞の字が読みにくく、視力が落ちた気がするそうです。


Q: 視力が落ちた気がするのですが、春の社内健診では左右とも1.2で昨年と同じ視力でした。産業医に相談したところ、1.2なら自動車運転は勿論、パイロットでも、電車運転士もOKといわれました。

A: 確かに視力1.2なら、電車も飛行機も運転操縦ができます。でも自覚的に以前と比較して見えにくい気がするのは無視しない方がいいと思います。

Q: いちばん可能性があるのは何でしょうか

A: 老眼鏡が合わなくなってきたことが考えられます。しかし他に、かなり進行するまで視力が保たれている目の病気が潜んでいると困りますので、念のため精密検査をお勧めします。

Q: どんな検査を受ければいいのでしょうか

A: まず健診の際よりも精密な視力検査を実施します。健診では遠方視力を診ますが近方視力も必要で、視野、立体視、必要に応じては動体視力も測定します。更に眼圧、眼底鏡検査、老眼鏡チェック、白内障緑内障の可能性を考慮した眼科診察も必要です。また全身性疾患の部分症状としての眼症状の可能性も考えなければなりません。

Q: 会社には眼科専門医が週半日来ていますが、社内での検査は無理でしょうか

A: 一般に企業内診療所でできる眼科検査は、設備的にも人員的にも限界がありますので、どこか信頼できる眼科医を紹介してもらってください。

Q: 私の老眼鏡は7〜8年前に作ったものですが、老眼鏡が合わなくなることはよくあることなのでしょうか。

A: 老眼の成因から考えると、以前作成した老眼鏡が合わなくなることは十分可能性があります。眼はカメラで言えばレンズに相当する水晶体が膨らんだり薄くなったりしてピントを合わせています。遠くを見るときは水晶体の周辺にある筋肉が収縮して水晶体を薄くしてピント合わせをしています。逆に近くを見るときは水晶体自身の弾力性で水晶体が厚くなってピントが合います。

 しかし加齢と共に水晶体の弾力性が失われて、近くを見る際に十分な厚みを得ることができなくなります。そのため遠くはピントが合いますが、近くを見るのに十分な水晶体の厚さが得られず、新聞は手をいっぱい伸ばしても小さい字は読みにくいということになります。そこで眼の外側に凸レンズを置いてピントを合わせる補助をするわけです。水晶体の弾力性は年々低下しますので過去に作った眼鏡で不十分な場合はレンズを取り替える必要があります。

Q: 明るい日差しの下では小さい字も結構読めますが、夕方薄暮の時間になると辛くなるのはなぜですか

A: 焦点深度のためです。カメラは明るい環境下では絞りが自動的に効いてカメラに必要以上の光が入らないようになっていますが、眼も同じで眼に入る光の量は瞳孔の開き具合で調節されています。周囲が明るくて瞳孔が狭いときは絞りが効いてピントが合う距離が長くなり、小さい字も読みやすくなるのです。

(鷲崎 誠=東京地下鉄株式会社保健医療センター所長)
http://www.nikkeibp.co.jp/style/secondstage/kenkou/q-a_090708_02.html

BP net 2010.7.8


<ホームページ紹介>
渡辺内科  http://www4.ocn.ne.jp/~watanai/