畑作物カドミウム濃度

きょうはちょっと堅苦しい、しかも旧聞に属するニュースを取り上げました。
しかし、口の中に入るものの話で私達にとって大いに身近な問題なのです。


畑作物カドミウム濃度報告せず 10品目基準超 環境省

環境省が2007~09年、有害重金属カドミウムについて、汚染された土壌から生産された作物の濃度を調べた結果を、カドミウムの安全基準の設置を検討していた厚生労働相の諮問機関「薬事・食品衛生審議会」に伝えていなかったことが、朝日新聞の調べでわかった。
調査結果では小麦やホウレン草、ナスなど10品目で国際規格の安全基準を上回っていたが、審議会ではこれらの作物に対する基準の設置が見送られた。

国審議会 基準設置見送り
日本ではコメだけにカドミウムの安全基準があり、基準を上回ると焼却処分されるが、コメ以外の畑作物には流通や生産に規制がない。
同審議会の元委員は「調査結果が報告されていれば、基準設置を見送った結論が変わっていた可能性がある」と指摘している。環境省は調査結果を公表していない。

この調査は「畑作物等指定要件検討基礎調査」で、国内の安全基準が設定された場合に必要なデータ収集として環境省が実施した初の全国調査。
07年6月と08年5月、同省土壌環境課長名で各都道府県に調査への協力を依頼し、09年3月までにとりまとめた。

朝日新聞は各都道府県への情報公開請求や取材で、調査に協力した25道府県分のデータを集め、農業試験場で実験的に栽培する作物などを調査対象にした9道府県分を除いた16府県分(54品目計1619点)について国際基準と照合。
その結果、国際規格のある30品目計1252点中、10品目計165点(13%)で安全基準を超えた。
一部地域の作物からは、最大値で国際基準の6倍以上のカドミウムが検出された。
直ちに健康被害を引き起こすとされる値ではないが、これらの畑作物は市場に流通したり、農家が自家消費したりしている。
基準を超えた作物が検出された複数の自治体は、朝日新聞の取材に対し、採取地にはカドミウムを廃水や大気中に排出する旧鉱山、製錬工場近くの畑を含むと答えた。

国際規格の安全基準は、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同食品規格委員会が06年までに、コメを含む穀類や野菜など主な作物の種類ごとに定めた。日本を含む世界貿易機関WTO)加盟国は協定で、原則従うこととされているが、強制力はなく、各国の取り組みに委ねられている。

同審議会に設けられた食品衛生分科会の食品規格部会は08年7月~09年10月、コメ以外の作物に安全基準を設けるかどうか計4回議論した。
その結果、「カドミウム摂取量は健康被害を起こす量を十分下回っている」と判断。コメ以外の作物は、コメに比べてカドミウム摂取量が少ないことなども根拠に基準を設けず、3~5年後に再検討するとの結論に達した。

環境省は同審議会にオブザーバーとして参加。調査を担当した職員は審議会に出席し、コメに関して同省の取り組みなどを説明していた。
08年3月と09年3月に調査結果を得ていたが、部会には伝えていなかった。

環境省土壌環境課は「調査は、畑作物の国内基準が設けられたことを想定して対策を検討する材料を集める目的で、基準設定の検討材料にはならないと考えた。審議会では基準設定が見送られたため、調査結果は提出しなかった」と説明。同審議会の事務局がある厚労省食品安全部基準審査課の担当者は「国内の畑全体の汚染実態を反映したものではないが、幅広い情報をもとに審議を尽くすためにも報告してほしかった」としている。 (藤田さつき、宮崎勇作、村上英樹)



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 * * *

カドミウム
自然界にごく微量存在する重金属で、大半は亜鉛鉱石などとともに産出される。
ニッケル・カドミウム(ニッカド)電池の電極や、はんだ、顔料、合金、半導体の原料などに使われる。日本は世界有数の輸入・生産国で07年は輸入約1500トン、生産量約2千トン。
鉱石の製錬過程で出た廃水や降灰が土壌汚染の原因と指摘され、高濃度に含む食品を長期間食べ続けると、腎臓の機能障害を起こす。カルシウムやたんぱく質が尿から排出され、悪化すると骨がもろくなり、イタイイタイ病の原因となる。 

出典 朝日新聞・朝刊 2010.3.5
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
環境省土壌環境課、厚労省食品安全部基準審査課の間の泥仕合になっています。
それぞれ官僚としての良心もあるのでしょうが、「縦割り行政」の矛盾や無駄については(気付いているかも知れませんが)踏み込みません。
調査には莫大な費用がかかっている筈です。
農作物について「中国産は危ない」ということは覆らないかも知れませんが、「国産なら安心」という「神話」は崩れそうです。
環境省がデータを意図的に隠したかどうか。
そんなことを問い質しても「はいそうでした」というわけがありません。

それにしても図を見る限り、小麦とホウレン草が特に心配ですよね。
小麦については、多くは外国に頼っている筈ですが、そのあたりも心配になって来ます。
輸入農産物のデータも是非公開していただきたいものです。


さらに、この新聞記事には以下の記載もあります。
■汚染原因はカドミウムを廃水や大気中に出す鉱山や製錬工場が代表的だが、カドミウムを含有するリン鉱石を使った肥料も考えられ、土壌汚染は人為的な側面が強い。
■汚染田は,農用地土壌汚染防止法で「対策地域」に指定され、その隣の畑は未対策というケースが少なくない。畑を事実上放置してきた国の責任は思い。
■調査結果のうち作物の最大値はホウレン草6.7倍、小麦6.6倍、ナス5.6倍など。
基準の6.7倍(1.35ppm)が検出されたホウレン草を体重50キロの人が食べると、おひたし1人分に満たない38グラムで1日分の耐容摂取量を超える計算になる。
こうした高濃度の作物が、一部地域で集中的に検出されているのが特徴だ。
■日本人の血中や腎臓中の平均カドミウム濃度は外国人の5~10倍という研究結果もある。




新ポリグリップEX13万個回収 入れ歯剤、亜鉛使用品

英国の製薬大手グラクソ・スミスクライン社の日本法人(東京都)は4日、同社が製造・販売する入れ歯安定剤「新ポリグリップEX」の販売を中止し、全国の店頭から約13万個を自主回収すると発表した。
定量を大幅に超える量を長期間使用した場合、体のしびれなどが起きる恐れがあるためという。

同法人によると、この製品には粘着力を高めるため、亜鉛が含まれている。
亜鉛の使用は違法ではないが、用法で定めた8倍にあたる1日約6グラム以上を7年間以上使うと、亜鉛の大量摂取による健康被害が出る恐れがあるという。

同製品の販売開始は2007年で、販売数は年間約100万個。
昨年以降、国内の利用者から「手先がしびれる」などの相談が3件寄せられたが、亜鉛との因果関係は不明という。
利用者が希望した場合は代替製品との交換に応じる。

同社が販売するほかの「ポリグリップ」3種類と、「ポリデント入れ歯安定剤」には亜鉛は含まれていない。

出典 朝日新聞・朝刊 2010.3.5
版権 朝日新聞社

<私的コメント>
義歯安定剤に含有する亜鉛の危険性については、実はすでに2年前から指摘されていました。
今回は自主回収ということで、「国民の健康を守る」厚労省が機能していなかったことは大いに問題です。
<関連サイト>
過度の義歯安定剤使用に注意
http://shirokuma.weblogs.jp/o/2008/10/post-768c.html
■Neurolgy 2008;71(9):639-643

また2009.9.7の第50回日本歯科医療管理学会学術大会でも、警鐘を鳴らす発表がされていました。

たっぷりと義歯安定剤を使用している患者にしばしば遭遇
http://insite.typepad.jp/shigakuinfo/2009/09/post-be39.html
■新ポリグリップEXには33.5mg/g,Super Poligrip Originalには37.0mg/g, Fixodent Originalについては16.0mg/gの亜鉛含有が確認された。
新ポリグリップS,タフグリップクリームについては亜鉛が検出されなかった.
厚生労働省公表の日本人の食事摂取基準によると,成人に推奨される一日あたりの亜鉛摂取量は男9mg,女7mg,上限量は男女とも30mgとされている。
一日あたりの義歯安定剤(粘着剤)の使用量を1~1.5g程度と考えると,含まれる亜鉛量が,摂取上限量を上回るケースも想定される。
使用した義歯安定剤がそのまま生体に摂取されるわけではないが,長期間にわたる過剰な使用については注意が必要であると考えられる。



イメージ 2

(黄金アカシア)
2010.8.14撮影 蓼科イングリッシュガーデン




沖縄興南高校の優勝で全国高等学校野球選手権大会も幕を閉じました。
我喜屋監督と島袋投手の冷静な姿が印象的でした。




読んでいただいて有難うございます。
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