PM2.5 高い発がんリスク

偏西風が強まる冬は中国で発生したPM2.5が飛来しやすい。
健康への懸念が高まる中で、自治体も住民への注意喚起の仕方を従来よりきめ細かくするよう改めた。

PM2.5に備え、高い発がんリスク 冬飛来しやすく 注意情報の確認を

■PM2.5は大気中に浮遊している直径2.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下の微粒子だ。
自動車や工場、火力発電所、焼却炉などが主な発生源で、森林火災や黄砂、火山灰など自然由来のものもある。
たき火やたばこの煙にも含まれている。
西日本は中国の影響が大きいが、関東などでは国内の発生源によりPM2.5が増えた例もある。

肺の奥まで入る
■PM2.5が厄介なのは髪の毛(70マイクロメートル)やスギ花粉(30マイクロメートル)より小さく、肺の奥まで入りやすいからだ。
PM2.5は肺で炎症を起こし全身に影響を及ぼす。
たばこと作用が似ている。

■2013年10月、世界保健機関(WHO)の専門組織が衝撃的な発表をした。
PM2.5を含む大気汚染物質の発がんリスクを5段階のうち最上位の「発がん性がある」に分類したのだ。
大気汚染に起因する肺がんで2010年には全世界で22万3000人が死亡したとのデータも示した。

■世界中の疫学研究を検討した結果、PM2.5は肺がんを引き起こすという十分な根拠があった。
WHOはPM2.5について、1日平均で1立方メートル当たり25マイクログラムまでとする環境基準値を定めている。
WHOの基準値以下でも影響がみられるため、大気汚染濃度の減少につながる政策は必要だ。

■PM2.5と健康被害に関する研究は既にいくつも報告されている。
代表が米東部の6都市の8000を超す住民を対象に、1974年から実施した研究だ。
PM2.5濃度が高いと、全死亡や肺・心臓などの病気による死亡の危険性も高まるのが分かった。

■米国がん協会による約30万人調査をもとにした02年の研究報告では、PM2.5の濃度が1立方メートル当たり10マイクログラム増えると、全死亡リスクが1.06倍、肺がんによる死亡リスクが1.14倍になるとした。

■欧州でも、今年まとまった17地域の約31万人を対象にした調査では、PM2.5濃度が5マイクログラム増えると、肺がんになる確率が1.18倍になった。
日本も米欧と同様の状況にあるとみられている。

日本の基準値は同35マイクログラムだが、環境省は2月、健康に影響が出る可能性が高まる濃度として70マイクログラムを暫定的に決めた。早朝の濃度をもとに、これを超えそうな場合は自治体が外出自粛を呼び掛ける仕組みも作った。11月には早朝の濃度が低くてもその後上昇するケースに備え、正午までの濃度も考慮してきめ細かく判断するよう改めた。観測地点も今年度末には全国約800カ所に拡大する見込みだ。

うがい・手洗いも
■PM2.5をできるだけ吸い込まないようにするにはどうしたらよいか。
まずはホームページなどで発表する自治体の注意喚起情報や環境省の全国の汚染状況を確認しよう。
濃度が高い場合は、不要不急の外出を控える。
屋外での長時間の激しい運動もなるべく避けることが大切だ。

■外出する場合でもマスクをすれば影響を減らせる。
一般のマスクではPM2.5を通してしまう可能性があるが、最近は医療現場で使われる0.3マイクロメートルの粒子を95%以上防ぐ「N95」規格などの高性能製品も売られている。
特に外で過ごす時間が長い子供、高齢者、肺や心臓などの持病がある人は、慎重に行動する必要がある。

■帰宅したら、うがいや手洗いを忘れないこと。
換気や窓の開閉を必要最低限にするとともに、室内にPM2.5を取り除く空気清浄機を設置するのも手だ。
ただ、過敏になって生活に支障が出るのはよくない。
注意喚起が出るときに気にするぐらいの感覚でちょうどよい。


《ホームページ》
◆全国各地の大気汚染状況がわかる
 環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめくん」
 http://soramame.taiki.go.jp/
◆3日先までの予測を知りたい人は
 日本気象協会「PM2.5分布予測」
 http://guide.tenki.jp/guide/particulate_matter/


出典 日経新聞・朝刊 2013.12.15
版権 日経新聞