子供の受動喫煙

吸わないのに受けてしまう、たばこの害。
子どもが受動喫煙で受けるダメージは、大人より大きくなります。

大人の場合ですが、喫煙はがんの最大原因で、日本人の場合、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんのリスクは4.5倍増えます。
この比率は欧米では10~20倍に増えます。
また、喫煙は肺がん以外のすべてのがんも増やします。
たばこの煙には60種類もの発がん物質が含まれています。
タールやニコチン、一酸化炭素ベンゾピレンなどの発がん物質の濃度は、主流煙より副流煙の方が3.5倍になります。
たばこを吸わない奥さんが、1箱以上吸うご主人と暮らしていると、奥さんの「肺腺がん」の危険は約2倍になります。
受動喫煙はがんのほか、心筋梗塞脳卒中など、年間7000人近くの日本人の死亡原因となっています。
そのうちの約半数が、職場での受動喫煙による肺がんと心筋梗塞で、1年間に男性1814人、女性1811人の合計3625人もの命が失われていると推計されています。

さて、5月31日から1週間はWHOが世界中の国々に呼びかけている「世界禁煙週間」でした。
厚労省の掲げた今年の標テーマは「オールジャパンで、たばこの煙のない社会を」です。
一方、WHOは「Raise taxes on tobacco」(たばこ税を引き上げよう)でした。
皆さんは、どちらに賛同しますか?




ベランダの「蛍族」でも残る悪影響

たばこの煙にさらされる子どもの「受動喫煙」の危険性を示す様々なデータを根拠に、海外では規制強化が進んでいます。
例えば英下院は2014年2月、子どもを乗せた車の中での喫煙を禁じる法案を可決しました。

子どもは体が小さい分、体重当たりの呼吸量が大きく、有害物質をより多く取り込んでしまいます。
さらに、発達途中の内臓や脳は、取り込んだ有害物質を分解・排出する力が弱く、成長期で細胞分裂も盛んなため発がん性物質の影響も受けやすいのです。

胎児への影響も深刻です。
たばこを吸う妊婦が産んだ新生児の平均体重は、吸わない妊婦よりも200グラム前後少なくなります。
ニコチンの影響で血管が縮み、胎児に栄養が届きづらくなり、シアン化水素が成長に欠かせないたんぱく質の合成を邪魔します。

さらに一酸化炭素で胎児の脳が酸欠状態になり、脳の成長にも影響を及ぼします。
幼児期の知能指数が4~6ポイント低くなるという報告や、注意欠如多動性障害(ADHD)の出現率が2~3倍になるとの報告が出ています。

中国の大気汚染で有名となった、肺に入り込むほど小さな粒子(PM2・5)が注目されていますが、たばこの煙もまたPM2・5です。

車の運転席で吸った場合には、全ての窓を10センチ開けエアコンで換気をしても、車中の濃度は最大約3千マイクログラムになります。
助手席より後部座席の方がより高濃度でした。
たとえベランダや換気扇の下で吸っても、子どもは影響を受けます。
家族がたばこを吸う家の子どもの尿中のコチニン(ニコチンの代謝物質)の量は、吸わない家庭に比べ、「換気扇の下」で3・2倍、「ベランダ喫煙」でも2・4倍と多かったのです。

喫煙後の服や、家具や壁などに残るたばこ由来の化学物質を触ったり吸い込んだりすることを「三次喫煙」と呼びます。
これによる健康影響を探る研究は始まったばかりですが、細胞のDNAを傷つける可能性などの報告があります。
化学物質がついた家具や服に小さな子らが触っていることを認識する必要があります。

これだけ体や知能にダメージを与え将来の健康も損ねるたばこを子どもの前で吸うのは一種の虐待行為と言えます。

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出典 朝日新聞・朝刊 2014.3.1( 一部改変 )
版権 朝日新聞社

参考
受動喫煙対策が急務」 中川惠一 日経新聞・朝刊 2014.6.1