血液数滴でめざす「がん超早期発見」

血液数滴でめざす「がん超早期発見」 ごく初期でも分泌 マイクロRNAから特定

わずか数滴の血液で、極めて早期に13種類のがんを診断する技術の研究が進んでいる。
すでに、がんを判別する手がかりになる、血液中の「マイクロRNA」の組み合わせを特定した。
目指しているのは、がん検診での実用化だ。

さまざまな生体機能を調節しているマイクロRNAは、細胞の発生やがん化などに深く関わっているとされる。
 
がん細胞から分泌されたマイクロRNAは、直径100ナノメートル前後の小胞体「エクソソーム」に守られており、血液中でも分解されにくい。
がんが小さい段階でも分泌されるため、これを捉えることでがんを早期に見つけられる。

国立がんセンター国立長寿医療研究センターなどを中心に、血液などに含まれるマイクロRNAを測定し、がんを発見する技術を開発する5年計画の研究を2014年度から進めている。
日本人に多い胃がんや大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がんなどの早期発見、死亡率の改善や医療費の削減を目指す。
検査用キットを開発する東レ東芝なども参加。
産官学の国家的な事業に位置づけられている。
 
現在、がん検診で行われている、肺がんのエックス線検査や乳がんマンモグラフィー検査などは、がんがある程度大きくならないと発見することが難しいとされる。
また、血液検査の「腫瘍マーカー」は早期発見には適していない。
がん患者の経過観察や治療効果を判定する際に利用されているが、細胞のがん化に伴って出てくる物質を調べるため、がんの初期では陰性と判定されることも多い。
 
これに対し、マイクロRNAはヒトでは約2700種類見つかっており、がんなどの病気によって特定の種類が増減していることがわかってきた。
研究グループは約5万人の血液を使い、13種類のがんでそれぞれどのマイクロRNAが変動するか調べた。
平均5、6種類の特定の組み合わせで、がん患者と健常者とを高い精度で見分けられることが明らかになった。
 
診断の方法はまず、採取した血液(0.3ミリリットル)から、試薬を使ってマイクロRNAを抽出する。
そこに蛍光色素を付け、マイクロRNAを検出するためのDNAチップに流し込み、レーザーを当てる。
マイクロRNAの出現量が多いと強く光を放つ。
その特徴によって、がんの種類を特定する。
 
卵巣がんでは10種類のマイクロRNAを調べることで、感度(がんの人を正しくがんと判定する確率)99%、特異度(がんでない人を正しくがんでないと判定する確率)100%だったと、昨年論文発表された。
卵巣がんの初期は症状が出にくく、進行した状態で見つかることも多いが、ごく初期の「ステージ Ⅰ」の患者を95%の精度で判別できた。
ほかのがんも同様の高い確率で診断できた。

大腸がんの便潜血検査の感度は70%前後だ。
肛門に近い所にできたがんに比べて大腸の奥だと見つけにくい。
マイクロRNAの診断は、がんができる部位に関わらず感度が高い。
 
マイクロRNAは尿や唾液などにも含まれている。
ただ、従来は効率的に取り出すことが難しいと考えられてきた。
 
名古屋大では新たな技術を開発。
200~300種類しか見つかっていなかった尿中のマイクロRNAを、この技術により1千種類、発見した。
尿に含まれているマイクロRNAは、前立腺や膀胱など泌尿器系のがんに特有なものしかないのではないかと当初みられていたが、肺、膵臓、肝臓がんでも見つかった。
尿検査なら血液の採取より負担が少ない。
検診のハードルが下がることでがんの早期発見につながること期待される。
 
研究グループの参加企業は、まずは血液を使った検査を20年ごろをめどに、人間ドックのオプションなどで受けられるようにすることを目指している。
 
ただ、公的に認められるがん検診となるレベルの実用化には、まだ課題もある。
グループのこれまでの研究は、マイクロRNAによる新たながんの診断方法の開発が目的で、がん患者と分かっている人の血液を主に分析してきた。
実際のがん検診だと大勢の健常者からごくわずかながん患者を精度良く判別することが求められる。
精度を検証するため、自治体の検診で臨床研究を進めることも検討されている。

また、マイクロRNAには、がんができる上で重要な役割をしているものや、特定の臓器だけに存在するものがあることなどの特徴が分かってきたが、がんができた際に、なぜ特定のマイクロRNAの量が増減するの
か、詳しい理由は分かっていない。
マイクロRNAの検査で「がんの疑い」と判定されたとしても、がんとの因果関係が分かっていなければ、不安に感じる人がいるかもしれない。
カニズムを解明する研究にも力を入れる必要がある。       

エクソゾームの研究も
細胞から分泌されたエクソゾームには、細胞内のマイクロRNAやDNA、たんぱく質などが含まれている。
体中を循環して細胞間の情報伝達をしていると考えられている。
がん細胞から出たエクソソームの中のたんぱく質質量分析計で分析し、がんの早期発見を目指す研究も進められている。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.2.3