遺伝子制御、創薬の潮流に

遺伝子制御、創薬の潮流に がん・腎臓病で

遺伝子の働きを左右するスイッチを制御する新たな仕組みの創薬研究が進んでいる。
製薬会社が力を入れる「中分子医薬」の一種で、体内の狙った部位に届きやすく、高い治療効果がでると期待されている。
狙った遺伝子に合わせて自在に新薬候補を設計できるため、がんや腎臓病など様々な病気の治療に役立つ可能性がある。

運び役がなくてもDNAの狙った場所に結びつく。
腎臓病を根治するような新薬を狙う。
新薬候補と期待するのは「ピロールイミダゾール(PI)ポリアミド」と呼ばれる化学物質だ。

この物質は、製薬会社が成長分野とする中分子医薬の新たなタイプだ。
遺伝子のスイッチ役となる物質を抑えるために使う。
遺伝子が働いてたんぱく質を作るためには、スイッチ役の物質がDNAの特定の場所に結合する必要がある。PIポリアミドはその場所に先に結合し、スイッチ役の結合を妨げる。
これで病気の原因遺伝子の働きを制御するわけだ。

中分子医薬には核酸医薬などがあるが、体内で分解されやすい欠点があり、狙った場所に運ぶのが課題となっている。
新物質はこれを解決できると注目を集めている。
以前は合成が難しかったが、日大や京都大学が自動合成装置を開発し、研究に弾みがついた。

日大の福田教授らは、腎臓の機能低下を促す物質を作る原因遺伝子の働きを抑えるように設計。
サルの実験で機能低下を抑える効果を確認した。

腎臓病で人工透析を受けるのは国内に30万人以上、医療費は年1兆6千億円に上るとされる。
根治できれば医療費抑制の効果は大きい。
福田教授は「4~5年後に臨床試験(治験)を始めたい」と意気込む。

がん治療への応用も進む。
京大では難治性小児がんを対象に研究に取り組む。
原因遺伝子「RUNX1」の働きを抑える中分子を作りマウスに投与する実験では、がんが縮む効果があった。小児がん白血病、肺がんなどで2年後の治験を目指す。

PIポリアミドはDNAの狙った場所に結合するように、自在に設計できるのも特徴だ。
まだ薬のない病気でも関係する遺伝子が分かれば、それに合わせて簡単に設計して作ることができる。
現在の新薬開発は2万5000分の1の成功確率といわれ、生み出すのに1000億円以上の費用と10年以上の期間がかかる。
この新技術が様々な病気で応用できれば、創薬の効率が大幅に高まる可能性がある。

中分子医薬
分子量が数千程度の医薬品。
遺伝子に直接作用する核酸医薬や、ペプチド製剤などがある。
高分子医薬のように病気にかかわる特定のたんぱく質に結合して作用し、低分子医薬のように化学合成などで製造できる。
高い薬効と低コストを両立できると期待されている。

参考・引用一部改変
日経新聞 2019.2.4