抗菌薬と抗生物質の違い

医師も知らない?抗菌薬と抗生物質の違い

https://www.asahi.com/articles/SDI201703292325.html
普通の風邪には抗菌薬(抗生物質)は効かない。
ところで、「抗菌薬」と「抗生物質」ってどう違うんだろうか?
「たいして違わなんじゃないか」と思ったあなた、だいたい正しいです。
微妙に使い分けをする専門家もいますが、臨床の現場ではほぼ同じような意味で使われているのが現実です。

患者さんが使う言葉としては、「抗菌薬」でも「抗生物質」でもどちらでもそんなに変わらない。
ただ、圧倒的に「抗生物質」と言う患者さんが多い現実がある。
医師でもこだわりのない人は「抗生物質」と言う。
一方、感染症を専門とする先生方は「抗菌薬」と呼ぶ人が多い。
広く読まれている感染症のテキストである「レジデントのための感染症診療マニュアル第3版」には、抗菌薬と抗生物質について以下のような記載がある。
 
「細菌の増殖を抑制したり、殺す薬が抗菌薬である。この抗菌薬のうち細菌や真菌といった「生き物」から作られるものを、特に抗生物質(antibiotics)と呼ぶ」

この定義に従えば、抗菌薬のほうが広い概念になる。
「生き物」が作る「抗生物質」として有名なのが、青カビが作る「ペニシリン」だ。
ペニシリン抗生物質であり、抗菌薬でもある。
一方で、化学的に合成されて作られるものは抗菌薬であっても抗生物質ではないことになる。
よく処方されるものでは、ニューキノロン系の「レボフロキサシン」(商品名:クラビット)が抗生物質ではない抗菌薬だ。
 
この定義に従わなくても必ずしも間違いとは言えない。
クラビット抗生物質と呼ぶ医師はいくらでもいる。
ただ、こうした用語の使い分けを知っていれば、文献を読むときに著者のこだわりがわかって興味深い。
最近、厚生労働省の専門家作業部会が、風邪に「抗生物質」を使い過ぎないよう「適正使用の手引き」をつくった。
この手引きの名称は「抗微生物薬適正使用の手引き」だ。
 
まず、「抗生物質」でもなく「抗菌薬」でもなく「抗微生物薬」と表現しているところにこだわりを感じさせる。
細菌と真菌とウイルスはそれぞれ異なるものだ。
「細菌の増殖を抑制したり、殺す薬が抗菌薬」だとすれば、真菌に効く薬(抗真菌薬)やウイルスに効く薬(抗ウイルス薬)は抗菌薬ではない。
適正使用の対象は、こうした薬も含まれますから「抗微生物薬」なのだ。
 
厚生労働省の「手引き」には、「抗生物質」という言葉が出てくるが、「医師から患者への説明例」などに限られている。

参考
抗微生物薬適正使用の手引き 第一版(仮称) たたき台
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000152769.pdf