耐性菌

耐性菌、身近な病気でも 抗菌剤効かず 難しい治療

抗菌薬の効かない耐性菌が、中耳炎など身近な病気でも見つかるようになり、薬の使い方の見直しが進んでいる。
耐性菌が広がる背景には、本来必要のない抗菌薬の処方もあるとみられる。
新しい耐性菌を増やさないためにも、処方された薬を最後まで正しく服用することが大切だ。

中耳炎 快復に1カ月
Aさん(39)の3歳の男児は昨年9月、鼻炎の症状で近所のクリニックを訪れ、中耳炎と診断された。
ペニシリン系抗菌薬など2種類の抗菌薬(抗生物質)を飲んだが、良くならず、10日後に中耳炎はさらに進行した。
 
抗菌薬は効く仕組みの違いによって、様々な種類がある。
男児は次にカルバペネム系抗菌薬など別の抗菌薬を処方されたがよくならず、他の医療機関を受診した。
さらに違う抗菌薬を5日分服用したが、再び発熱。
10月8日に鼓膜を切ってうみを出し、別のニューキノロン系の抗菌薬を処方され2週間後に治った。
Aさんは「1カ月間なかなか治らないのは、見ていてかわいそうでつらかった」と話す。
 
最近、子どもたちの間で、抗菌薬を変えなけれぱならないような難治性の中耳炎が増えている。
原因は耐性菌だと考えられる。
 
耐性菌は、病院の入院患者など体力の落ちた人の間で広がることが多い。
だが、最近は中耳炎や膀胱炎など、身近な病気でも見つかるようになっている。
 
全国55施設の耳鼻咽喉科の患者の検体から見つかった菌を日本化学療法学会など3学会が分析した結果、中耳炎の原因となるインフルエンザ菌では、ペニシリン系の薬に耐性を示す割合が1998年の約30%から12年には約70%に増えた。
 
細菌が増殖する過程で、耐性菌は一定の割合で生まれる。
通常は生き延びることができないが、抗菌薬を使うと、耐性菌だけが生き残るため、増えてしまう。
 
日本耳科学会などは13年、耐性菌の発生を抑えるため小児急性中耳炎のガイドラインを改定した。
中等症や重症の患者には、通常より多めの抗菌薬を短期間使うことや、多くの種類の菌に効く切り札となる薬は最初から使わないよう求める。
軽症の場合、抗菌薬を使わず、まずは様子をみることも求めている。
 
適切な抗菌薬でしっかり治療することで、その他の抗菌薬への耐性を持つ率を下げられる。

薬は正しく最後まで
風邪の多くはウイルス感染で起きる。
耐性菌が広がる背景には、ウイルス性の風邪などに対しても抗菌薬が広く使われていることがあると考えられる。
 
20~69歳の約1千人を対象に14年に実施したネット調査によると、「風邪で受診したら抗菌薬を処方して欲しい」という質問に対し、「強くそう思う」「そう思う」という人が約2割いた。
「抗菌薬はウイルスに効く」という質問に「はい」と答えた人も半分近くに上った。
 
ある専門家は「時聞が経ってウイルスの感染症が治ったことを、抗菌薬の効果だと考えているのではないか。医師が患者からの希望に影響され、結果的に不必要な処方につながっている可能性がある」と話す。
 
厚生労働省が作成中の抗菌薬の適正使用を示す医師向け手引案には、抗菌薬でかぜの治癒が早まることはないとして処方は推奨しないことが盛り込まれた。 

一方、適正に処方された抗菌薬を途中でやめてしまうと、薬の血中濃度が低い状態になってしまい、耐性菌が生まれやすくなる。
処方された抗菌薬は最後まできちんと飲み、余った場合でも家族や他の人に使うことは、絶対にやめたい。
 
耐性菌は感染しても発症するとは限らず、気づかないうちに周りへ広げる場合もある。
ただ、中耳炎や鼻炎を起こす菌は体の表面や口の中などにいて、手洗いやアルコール消毒、うがいといった通常の感染予防対策が効果的だ。
通常の対策で基本的に感染は防げるのだ。

 
イメージ 1


引用・参考
朝日新聞・朝刊 2017.2.8