耐性菌猛威、世界に警鐘

耐性菌猛威、世界に警鐘 2050年にがん死者上回る 日経アジア感染症会議で解決策探る


結核マラリアエボラ出血熱などに加え、多くの抗生物質が効かなくなった耐性菌のまん延が国際社会の脅威となっている。
日本の取り組みに期待が集まるなか、アジアの感染症対策を話し合う第4回日経アジア感染症会議(主催・日本経済新聞社)が3月3~4日に那覇市で開かれた。
国内外から産官学の関係者が参加し、具体策を議論した。

多剤耐性菌による経済損失、100兆ドルに 50年、がん患者上まる
世界保健機関(WHO)は2月、国際社会が優先して研究開発に取り組むべき薬剤耐性菌のリストを公表した。
12種類について抗菌剤(抗生物質)が効かなくなりつつあり、治療の選択肢が急速に狭まっていると警鐘を鳴らした。
 
英国の研究チームが2015年に発表した多剤耐性菌の報告書では、50年までに多剤耐性菌による死者数は年間1000万人と、現在のがんによる年間死者数を上回ると推定した。
世界経済の損失は100兆ドル以上に達するとしている。
 
抗菌剤を開発してもすぐに耐性菌が出現し、いたちごっこになっている。
多くの製薬企業は開発費がかかるわりには、収益が上がらないため、新たな抗菌剤の開発から手を引いている。
こうしたことから多剤耐性菌による死者が急増すると予想されている。
 
英国では多剤耐性菌に対する抗菌剤を開発する十分な施設がなく、研究者も不足していたため、16年、AMRセンターという産官学の組織を設立した。

米国では「CARB―X」という産学官の組織を立ち上げ
一方、米国も16年7月に米ボストン大学を中心に「CARB―X」という産学官の組織を立ち上げた。
英国のAMRセンターと連携し、新たな抗菌剤の開発に乗り出した。
 
米政府もCARB―Xを支援するため、5年間に2億5000万ドルの資金を援助する。
 
CARB―Xは3月30日、WHOが公表したリストにある多剤耐性菌に効果がある新しい抗菌剤やワクチン、診断薬を開発するベンチャー企業11社を決めた。
開発資金の一部を拠出する。バイオベンチャーのうち8社は米国、3社が英国に本拠を置く。
支援総額は最大で合計4800万ドルにのぼる。
 
人の免疫システムに働きかけて耐性菌を攻撃する力を高める薬剤など、これまでとは異なる革新的な治療薬の開発などがテーマにあがっている。
 
日経アジア感染症会議に参加したAMRセンターのピーター・ジャクソン・エグゼクティブチェアマンは「今回は日本企業の応募がなかったが、次回、CARB―Xが開発テーマを公募する際にはぜひとも参加してほしい」と話す。

こうした中、塩野義製薬はWHOが公表したカルバペネム耐性緑膿(りょくのう)菌や腸内細菌科細菌といった重症化のリスクが高い菌に効果がある「シデロフォアセファロスポリン抗菌薬(S-649266)」の国際共同治験を進める。
  
すでに治験は最終段階に入っており、米国では米食品医薬品局(FDA)に申請する準備を進めているという。
  
厚生労働省も16年、5年間の「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定し、研究開発や創薬の推進などを掲げた。
 
日本医療研究開発機構は、薬剤耐性菌に対する新しい治療法の研究などに取り組む「感染翫研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)」に取り組む。
 
それぞれのテーマに年間1500万円程度を助成し、全体で年間30テーマ程度を採択
する予定だ。
 
免疫学者や微生物学者だけでなく、工学系や数理学者など異分野の研究者が連携して
多剤耐性菌などに効果がある革新的な創薬を目指す。

日本企業取り組み進む 40年ぶり新薬や検査薬
今回の会議では、世界で猛威を振るい始めた抗菌剤(抗生物質)が効かない薬剤耐性菌対策への日本企業の取り組みに注目が集まった。
耐性菌は、抗菌剤の使いすぎや体内に菌が残っているのに服薬を止めるといった不適切な使い方が背景にある。
進化する細菌などを抑え込むため、国内の製薬会社や診断薬メーカーが製品開発を急いでいる。
 
議題のIつとなったのが結核だ。
依然として三大感染症の一角を占めるが、主要な抗菌剤が効かないタイプが増えていることが報告された。これに立ち向かおうというのが大塚製薬
2014年に約40年ぶりの多剤耐性の結核治療薬「デルティバ(一般名デラマニド)」を発売した。
 
結核菌の細胞壁の合成を阻害するという新たな作用を持つ抗菌剤で、同社自身が販売するほか、世界抗結核基金を通じて45力国・2100症例以上に使われている。
20年までに2万症例が目標と関係者は言う。
デルティバとは違う作用を持つ多剤耐性結核を治療する化合物の研究開発も進めている。
 
多剤耐性結核か分からないまま抗菌剤を投与し続けると、耐性菌を生む土壌になってしまう。
そこでニプロが紹介したのが多剤耐性タイプの遺伝子を1日で判定ができる検査薬「ジェノスカラー」。
世界保健機関(WHO)のお墨付きも得た。
タイではすでに販売しており、インドネシアやフィリピンなどでも国際協力機構(JICA)の支援を得て評価を進めている。
 
ただ、感染症関連の開発投資の回収の難しさを指摘する声も目立った。
そこで企業側の負担を少しでも減らし、インセンティブを与えようというファンドの役割が重要になっている。
 
日本の官民基金「グローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)」はその代表格。
昨年12月までの段階で75億円を感染症の新薬開発などのプロジェクトに投資しており、7件は治験が進行中だ。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.4.17