広がる耐性菌の脅威 薬の多用が、抵抗力を生み
「風邪ですが念のため」。
こんなふうな抗菌薬の処方の仕方が、急速に見直されてきている。
抗菌薬は風邪に効かず、副作用のリスクがある。
さらに、不適切な使い方が世界的な脅威となっている耐性菌をうみ出し、増やすことにつながるためだ。
<コメント>
このように「風邪」の診断は、いとも簡単であるかのように書かれることが多いのですが、臨床現場での風邪の診断は意外とお粗末であることに気づかれる方も多いのではないでしょうか。
大した診察もせずに、最初から「風邪」と決めつけて診察する医師も数多くいます。
普通にいうところの抗生剤が不要な「風邪」は(ごくありきたりの)ウイルス性の感染症であり、「普通感冒」という専門用語があります。
こういった際にも、混合感染といって経過中に抗生剤が必要になる場合もあります。
一方、マイコプラズマ感染症や溶連菌感染症やインフルエンザのような「普通感冒」と紛らわしい感染症は(「普通感冒」もひっくるめて)「かぜ症候群」といいます。
風邪と思って医療機関を受診される方も、そのぐらいの知識を持っておかれると「普通感冒」や「かぜ症候群」の中には抗生剤が必要な場合があることを受け入れてもらえます。
もちろん抗生剤が不要なケースもたくさんあります。
要は「普通感冒」と「かぜ症候群」を区別して治療していただける医師にかかることをお勧めします。
いずれにしろ素人判断は禁物です。
細菌は、千分の1ミリほどの微生物だ。
腸管出血性大腸菌やジフテリア菌のように毒素を出す有害な菌もあれば、口や腸の中、皮膚の上に普段は無害な常在菌もいる。
常在菌でも病気で抵抗力が落ちたり、けがや誤嚥で菌が別の場所に入り込んだりすると、重い感染症の原因になる。
20世紀に続々と登場した抗菌薬で、感染症の治療は一変した。
抗菌薬は高度医療の立役者にもなっている。
手術や、体に異物が入る人工心肺、カテーテルといった処置は、感染の危険と隣り合わせだからだ。
風邪やインフルエンザを引き起こすウイルスと違い、ヒトも細菌も細胞からできた生き物だ。
ヒトヘの害を抑え、いかに高い効果で病原菌を倒せるかが抗菌薬のカギになる。
英国の医師、アレクサンダー・フレミングが1928年に発見したペニシリンは、細菌の細胞膜を標的にする。
細胞壁は網状に組まれた分子のあつまりで、ヒトにはない。
ペニシリンの「βラクタム環」という部分が、細胞壁を作る分子にくっついて妨害し、細菌は壁を失って壊れる。
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ペニシリンの実用化は40年代。
しかし、この頃には耐性菌の存在が明らかになり、フレミングは45年のノーベル医学生理学賞受賞時に懸念を口にしていた。
耐性菌は、
1. 抗菌薬の成分を壊す
2. 薬が標的とする部分を変化させる
3. 細菌の中に薬を入れない
4. 薬を外へくみ出す
といった能力を、もともと持っていたり、獲得したりしている。
抗菌薬には、使えば使うほど、抵抗力の強い菌が生き残って増えてしまうというジレンマがあり、薬の開発と耐性菌の出現は、いたちごっこが続いてきた。
しかし、細菌との競争は、様相が変わりつつある。
新薬の開発が先細る一万、ペニシリンだけでなく他のタイプの薬も効かない多剤耐性菌が現れ、病院などで集団感染する例が出ている。
特に、多剤耐性アシネトバクターや、抗菌薬の「最後の頼みの綱」とされるカルバペネムが効かない場内細菌は、脅威とされる。
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2014年、経済学者ジム・オニール氏の報告書が、世界に衝撃を与えた。
がんによる死者820万人に対し、薬剤耐性による死者は現状では低く見積もって70万人。しかし、何も対策をとらなければ、50年には1千万人に達すると推計した。
新たな耐性菌を新薬で治療しにくくなっているという現状がある。
こうした中で、世界各国は対策を急ピッチで進めている。
日本も16年に、20年までの行動計画をつくり、対策を強化した。
国内では、カルバペネムが効かないといった最も問題のある耐性菌はまだ少ないものの、本来は必要ではない風邪などで多くの抗菌薬が使われてきた。
計画では、1日あたりの使用量を13年の水準の3分の2に下げることも目標にしている。
使わなくていいところで使わないようにする。
それが一番期待しうるやり方だと思われる。
厚労省の報告書によると、2016年の抗菌薬の使用量は18041トン。
ヒト用は591トンにとどまり、より多くが畜産や農業で動物に使われている。
家畜に使われたために、ヒトの治療で重要な薬に耐性菌が生じたとみられる例も過去にあった。
業界を越えた連携、対策の強化がさらに求められている。
<コメント>
抗生剤の使用量を重さで表現することや、重さの単位をトンで表すのには少し抵抗があります。
しかし、耐性菌対策を考える場合には人畜(養殖の魚も含む)一体で考えることの必要性を、この記事は訴えています。
自分では抗生剤を服用していないつもりでも、知らないうちに抗生剤が体内に入り込んでいるという現実があります。
環境汚染は、自然環境だけではなく体内環境も汚染が進んでいる、という現実があり
ます。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.10.12
<関連サイト>
抗菌薬と耐性化
https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/767