不運、知識と行動で克服
発がんの最大の要因は「がんに関連する遺伝子に起こる偶発的な損傷」だ。がんは運・不運に左右される病気だといえる。
喫煙や飲酒などは遺伝子にできるキズの発生頻度を高める。
運動やカロリー制限は損傷の頻度を下げるが、どんなに立派な生活をしても、生きているだけで遺伝子には「経年劣化」が起こる。
加齢とともに、がんができやすくなるのはこのためだ。
ヘビースモーカーで大酒飲みでもがんにならない運のよい人もいる。
逆に、完璧な生活習慣でもがんになることがある。
検診もすべてのがんを見つけることは不可能だ。
以上のことから、がんには運の要素もあることは確かだ。
がんだけでなく、人生には運・不運がつきものだ。
仕事でも、出世でも、実力だけで決まるものではない。
私生活も同様だ。
もちろん、個人の努力も大切だが、運の要素を否定することはできない。
がんは人生の他のほとんどの出来事と同じく、運に左右される病気だ。
しかし、がんにまつわる運・不運は知識や行動である程度までコントロールが可能となる。
生活習慣を整えることで、がんのリスクを大きく減らすことができる。
さらに、運悪く、がんになっても、がん検診で早期に発見すれば、9割以上完治する。
がんの運・不運は、交通事故や天災といった不可抗力とは別だといえる。
何事も「人事を尽くして天命を待つ」ことが大切だが、がんとの向き合い方も同様だ。
男性の3人に2人、女性でも半数が、がんになる。
「人生100年」に立ちはだかるこの壁を、知識と行動で乗り越えたいものだ。
執筆 東京大学病院・中川恵一准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2019.10.2