知識の有無が運命分かつ
がんは日本人の死因のトップで、年間38万近い人がこの病気で命を落としている。
これは死因の3割弱に相当し、がん死亡数は1985年の2倍にもなる。
がんが増えている最大の理由は高齢化だ。
がんは遺伝子の老化といえる病気だから、年齢とともに増えていくのは当然だ。
今、日本人男性の3人に2人が、女性でも半数が、生涯で何らかのがんにかかる。
日本が世界トップクラスの「がん大国」になったのは、長寿化が最大の理由だから、「縁起が悪い」とばかりはいない。
がんが死因になる割合は、年齢とともに高くなっていく。
男性では65~69歳がピークで、この年代のがん死亡は死因の半分弱を占める。
女性では55~59歳がピークで、死亡の6割近くが、がんによるものだ。
なお、がんは全体では男性に多い病気だが、54歳までは女性の方が上回りる。
乳がんは40代後半、子宮頸がんは30代に最も多い。
がんで死亡する割合は、男性では70代以降、女性では65歳以降は低下していき、100歳以上になると1割にもならない。
心疾患、肺炎、脳血管疾患、老衰といった、がん以外の病気が原因で死亡する割合が高くなるからだ。
様々な問題があるのは確かだが、日本は平和で住みやすい国だ。
「世界平和度指数レポート」の2019年度版でも第9位(トップはアイスランド、ニュージーランド、ポルトガルと続く)。
さらに、世界第3位の経済大国で、自然にも恵まれ、料理も美味しい。
外国出張から帰国すると、ホッとする。
そして、日本の長寿社会は「人生100年時代」に突入している。
今、この国で生きている幸せを長く噛みしめるためには、「がんの壁」を乗り越える必要がある。
がんはわずかな知識の有無で運命が分かれる病気だ。
子供たちへの「がん教育」によって長期的には日本のがん死亡も減っていくだろう。
執筆
東京大学病院・中川恵一 准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.1.8