がん死亡 同じ県内で格差

がん死亡 同じ県内で格差 医療費の効果検証必要

1人当たりの医療費が高いのに、全国平均と比べてがん死亡数が多い市区町村が全体の3割に上ることが20日日経新聞社の調査で分かった。
がん死亡の割合を比較したところ、同じ都道府県内でも市区町村間で大きな格差があった。
約40兆円の国民医療費は膨らみ続けており、社会保障の持続可能性を高めるため費用と効果を検証し、地域の特性に合わせた対策が必要になる。
 
同社は年齢調整をした死亡率(死亡数の対全国平均比率)と、1人当たり医療費のデータを入手し、全国1741市区町村を初めて分析した。
死亡率は全国平均(100)に対し、死亡数がどのくらい多いか少ないかを示す。
110なら1割高く、80なら2割低いことになる。
 
がんは日本人の死因のトップで2人に1人がかかるとされている。
抗がん剤など高額の治療も増え、国の医療費に大きな影響を与えている。
 
調査結果から浮かび上がるのは、医療費を多く使っている自治体が必ずしもがんの死亡率を抑えられていない現実だ。
男性のがんで医療費と死亡率の関係を調べたところ、いずれも全国平均を上回る自治体は520に上り、全体の29.9%を占めた。
札幌市や高知市大阪市といった医療機関が充実している都市部の自治体が目立った。
 
医療行為の価格(診療報酬)は全国で同じだ。
1人当たり医療費が高くなる理由は、同じ疾患でも入院期間が長かったり、受診する回数や検査などが多かったりすることが挙げられる。
食生活や運動など生活習慣の違いで地域の患者数が多いことも影響する。
 
東京都を分析すると、奥多摩町は男性のがんの死亡率が全国平均を上回っている。
特に胃、肝がんの死亡率が高い。
医療費は高齢化の影響だけでなく、予防や治療などの対策に課題もあり、全国平均を上回っている。
 
対照的に医療費と死亡率がともに全国平均を下回る自治体は428で、全体の24.6%だった。
長野県佐久市など健康長寿で知られる自治体が目立った。
 
東京都でも杉並区はがんの死亡率が全国平均より2割以上低く、医療費も全国平均を下回っている。
区の担当者は「区独自にがん対策の5カ年計画を策定し、予防を中心に対策を強化している」と説明、さらに死亡率を下げる取り組みを推し進めている。
 
今回の調査では、このように同じ県内でも市区町村別で医療費と死亡率に大きな格差があることが判明。
人口1万人以上の自治体で比較したところ、死亡率の県内格差は男性は北海道が1.78倍、女性は鹿児島県が2.30倍で最も大きかった。
 
医療費の総額は現在約41兆円で、毎年数千億~1兆円程度増え続けている。
高齢化と医療技術の進歩で医療費の伸びには拍車がかかる見通しで、少子化で支え手が減るなか、効果の検証を通じた抑制策が不可欠になっている。
 
政府は7月にも今後6年間のがん対策の基本方針を決定する予定で、都道府県は年度内にがん対策の基本計画を作る必要がある。10年前の計画で掲げた死亡率などの目標達成は難しい状況だ。
 
これまで都道府県の計画は市区町村別の対策まで踏み込んでいないケースが多い。
医療費を有効に使うためにも、こうしたデータから死亡率の高い原因を分析し、きめ細かい対策を講じる必要がある。

参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.5.21


関連サイト
医療費高いと死亡率下がる? 全市区町村マップ:日本経済新聞
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/health-expenditures-map/

「がん」の地域格差
データでみる あなたの市区町村は?
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/health-expenditures-topics3/