がん検診 不利益も

がん検診 不利益も

がんを早く見つけて治療につなげ、亡くなる人を減らす「がん検診」。
わずかだが予期しない合併症(偶発症)を伴い、高齢になると発生率が高まる。
このため、推奨する年齢に上限を設ける自治体も出てきた。
結論はまだ出ていないが国の検討会でも議論され、あるべき姿が模索されている。

年とるログイン前の続きほど増える偶発症 バリウムによる誤嚥・腸閉塞/腸に穴/台から転倒
「検診を重点的に推奨する年齢を示すべきでは」
「年齢を重ねると、検診に伴う偶発症の発生率が高まる。受診しろと言ってきたがブレーキをかけることもしないといけない」

市区町村が実施する、がん検診の方針を決める国の指針について話し合う厚生労働省の昨年夏の検討会。
現在、胃は50歳以上、大腸、肺は40歳以上などを対象とし、上限の年齢は決まっていないが、不利益を踏まえて決めた方がよいとする意見が出された。

がん検診は、早期発見・早期治療により死亡率を下げたり、「異常なし」とされたときに安心を得られたりする利益がある。
一方、不利益もある。
中でも高齢になると増えるのが偶発症だ。
胃がんのX線検査ではバリウムによる誤嚥や腸閉塞、腸に穴があく、検診台からの転倒などがある。

日本消化器がん検診学会が2015年度、全国の375施設約500万件分の胃がん検診での偶発症の件数を調べた。バリウム誤嚥は80歳以上では10万件あたり100件と、50代と比べて10倍以上多かった。
腸に穴があいたケースは80歳以上ではなかったが、10万件あたり65~69歳で0.16件、70~74歳0.26件、75~79歳0.44件と年齢が上がると多くなっていた。

学会の09年度の調査では、腸に穴があく偶発症が起きた6人のうち、半数が75歳以上で、いずれも人工肛門をつけるなどの手術を受けていた。

内視鏡検査でも、胃や食道の出血や穴があく、検査前の鎮静剤で呼吸が抑制されることがある。大腸がん検診では、精密検査の大腸内視鏡が当たったり、内視鏡を入れる前に下剤を飲んで腸に穴があいたりするなどのリスクが若い人と比べて高いという。

高齢になったら自分の体調や体力を踏まえ、医師と相談して検診を受けるようにしたい。

ほかにも不利益はある。
がんの進行速度はがん細胞の性質により大きく違う。
がん細胞が発生してから検診で見つかる大きさになるまでの期間が長いものもあれば、年1回や2年に1回など一定の間隔をあけて行う検診の間にがんが発生し、症状が出るほど急に進行するものもある。

進行速度がゆっくりしたがんは、急に進行するがんに比べて、検診で見つかりやすい。
ただしその中には、一生のうちにがんの症状が出ないかもしれないものも含まれているという。

進行するがんだとはっきり分かるものもあれば、進行するかどうか分からないものもある。
過剰診断をゼロにすることはできない。
また「がんかもしれない」という不安にさいなまれるという不利益につながる可能性もある。

対象年齢、上限設ける自治体も
検診の効果や不利益についての研究結果や専門家の意見を元に、推奨年齢に上限を設けている国がある。
大腸がんだと英国は74歳、米国は75歳などだ。

国内でも、独自に年齢の上限を設けている自治体がある。

長野県伊那市は、14年度からバリウムによる便秘や腸閉塞などのリスクが高まることから、胃がん検診のX線検査の対象を79歳までとした。
当初は「なぜ受けられないのか」と市民から問い合わせも多かったが、年齢とともに偶発症のリスクが高まることなどを説明。
「今では問い合わせは年数件ほどで、おおむね受け入れられている」と市の担当者は言う。
18年度からは大腸がん検診にも89歳の上限を設けた。

愛知県田原市も他の自治体で検診中に転倒があったことや偶発症のリスクを踏まえ、16年度から胃がんのX線検査の対象年齢を79歳までとする。

両市とも、80歳以上でも主治医に認められれば検診を受けることはできる。

17年度からの国のがん対策の指針「第3期がん対策推進基本計画」では、がんによる死亡率減少のために取り組むべき施策の一つとして、がん検診の意義とともに、不利益についても理解を得られるよう普及啓発活動を進めるとしている。

高齢者は若い人に比べて健康状態などに個人差が大きく、一律に年齢で当てはめるのは難しい。
高齢になると利益と不利益の差が小さくなる。
検診実施機関は不利益についても理解してもらうことが大切となる。

高齢者の受診、国も議論
一方、上限を設けないほうが良いとする声もある。

75~87歳の男女計8人にインタビューした調査結果がある。
健康への意識やがん検診の利益・不利益への理解、検診の中止を勧められたらどう感じるかを聞いた。

80代の男性は「検査がマイナスになるなんて考えられない」。
不利益についてはひとごとと捉える人が多かった。
高齢になると検診の受診を勧めないことがあると伝えると、別の80代男性は「受ける方が自分の人生観で判断すること」、70代女性は「がんになっても勝手にしなさいと突き放された感じがする。もう面倒を見切れませんと打ち切られたと感じる」と答えた。

厚労省は新年度以降の指針改定に向けて、検討会で議論を続けているが、対象年齢をどうするか結論は出ていない。
同省の担当者は「あくまで検診を重点的に勧める対象範囲をどうするかの議論であり、受けたい人が受けられなくなるわけではない」と話す。

がんの発生が増え、検診の利益が不利益を上回る年齢層に集中して受診勧奨すべきだ、という意見もある。

一方で、自治体の行うがん検診の年齢については積極的に自治体が検診の案内をする年齢をどこかで区切っても、その年齢を上回る高齢者が受診を希望すれば、それを妨げないようにしたらいい、というのが最終的な結論になりそうだ。

参考・引用一部改変
朝日新聞 2019.1.19



がん検診の目的とその利益(メリット)・不利益(デメリット
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kensui/gan/kenshin/riekifurieki.html



がん検診の不利益に着目して指針の改正へ 厚労省検討会
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=9980