内視鏡検査による胃がん検診

胃がん内視鏡検査を「推奨」 国立がん研究センター、新指針

国立がん研究センターが4月に公表した「胃がん検診ガイドライン」(2014年度版)で、内視鏡検査が初めて「推奨」とされた。
独自に公的負担を導入した地域では、がんの発見率が高まるなど成果も出ている。
ただ、広く普及するには専門医の確保や自治体の負担増など課題もある。
 
発見率、X線の3倍超 
内視鏡には、口から入れる経口と鼻から入れる経鼻があり、それぞれ特徴がある。
小型カメラが大きい分、経口は解像度が高くて観察できる視野が広く、より精度の高い検査ができる。
 
新潟市は2003年度から、胃がん内視鏡検査の公的負担を独自に始めた。 
同市医師会によると、03年度に検査を受けた約3万5千人では、X線が8割で、内視鏡は2割だったが、09年度に比率が逆転。
12年度に受けた約6万9千人では内視鏡が6割に増えた。
 
内視鏡検査を選択する人が増えた理由については、がん発見率の高さが挙げられる。
03年度以降の同市の胃がん発見率は、X線が毎年0.2~0.3%(千人あたり2~3人)。
一方、内視鏡は0.74~1.07%と3倍以上になる。
食道など他の部位の発見を含めると0.89~1.21%に上がる。
 
高い発見率の背景には診断結果を検証する「読影委員会」の存在がある。
事務局となる市医師会に週1回、内視鏡専門医らが集まり、見落としがないか検証する。同委による検証で、11年度までに当初「問題なし」とされたケースの8.9%でがんが見つかった。
自分の診断を評価されることに抵抗のある医師もいるが、ダブルチェックで高い発見率につながっている。
 
死亡率を下げる効果
国立がん研究センターは今年4月に公表した胃がん検診ガイドライン(2014年度版)で内視鏡検査を初めて推奨した。
対象はリスクの高まる50歳以上が望ましく、2~3年おきに受ければよいとしている。
 
前回の05年度版ガイドラインで推奨されたのはX線検査だけ。
内視鏡検査は「死亡率減少の効果の有無を判断する証拠が不十分」とされていたが、今回は効果が認められた。
 
13年に発表された新潟市と、同じく内視鏡検査を導入している鳥取県の住民を対象にした研究では、内視鏡検査で胃がん死亡率が30%減少する効果があった。
 
韓国で実施された20万人規模の研究でも、内視鏡で57%の胃がん死亡率減少効果があった。
韓国は日本と並んで胃がんが多く、国のがん戦略として胃がん検診を実施している。
 
ただ、ガイドラインは学術的な政策提言という位置づけ。
現在、厚生労働省の指針では、市区町村が実施する胃がん検診では、40歳以上の住民を対象にX線検査を年1回実施するとしている。
 
13年の厚労省調査によると、胃がん検診を実施する市町村のうち新潟市のように内視鏡検査を導入していたのは18%。
今後、厚労省の指針が改定されれば、さらに広がる可能性がある。

専門医確保・費用が壁
普及に向けては課題もある。
X線は放射線技師でも操作できるが、内視鏡は医師に限られる。
 
日本消化器内視鏡学会の会員は全国約3万3千人。
都市部への偏在が問題となる。
また、X線の受診者が内視鏡に置き換わった場合、推計で内視鏡医1人あたり年間約460人を現在の診療に加えて余分に診る必要があるという。
 
新潟市の場合、胃がん患者がもともと多く、内視鏡手術のできる医師が多かったという事情がある。
また、データ管理のできる市医師会のような機関が必要になるほか、負担額をめぐって検査を委託する医師会などとの調整も必要となる。
 
粘膜障害や鼻出血など偶発的に起きる事故(偶発症)への対処も必要になる。

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出典
朝日新聞 2015.6.29(一部改変)

<私的コメント>
内視鏡は、洗って次の人に使います。
場合によると、同じ内視鏡を一日のうちに10人以上の人に使う場合もあります。
内視鏡に付着している、唾液、胃液、ピロリ菌、食物残差、病原性細菌、ウイルス、寄生虫などが次の人の身体に入っていく可能性があります。
それを防ぐために十分な消毒が必須ですが、胃カメラ検診の推進に当たっては行政の十分な指導監査が必須です。



<関連サイト>
胃がん検診に内視鏡をはじめて推奨 50歳以上は2~3年に1度の受診を
http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2015/004246.php
国立がん研究センターは、「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版を公表した。
 市区町村が実施する胃がん検診に、はじめて「内視鏡検査」を推奨した。がんのリスクが高まる50歳以上を対象とし、受ける間隔は2~3年でもよいとしている。
・「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年度版における胃がん検診の推奨例
(1)胃X線検査
利益(死亡率減少効果)を示す相応な証拠があります。不利益については偽陽性、過剰診断、放射線被ばくの可能性があります。両者を勘案して対策型検診・任意型検診としての実施を勧めます。検診対象は50 歳以上が望ましく、不利益について適切な説明を行うべきです。
((2)胃内視鏡検査
利益(死亡率減少効果)を示す相応な証拠があります。不利益については偽陽性、過剰診断、前処置の咽頭麻酔によるショックや穿孔・出血などの偶発症の可能性があります。両者を勘案して対策型検診・任意型検診としての実施を勧めます。検診対象は50歳以上が望ましく、検診間隔は2~3年とすることが可能です。ただし、重篤な偶発症に迅速かつ適切に対応できる体制が整備できないうちは実施すべきではありません。さらに、精度管理体制の整備と共に、不利益について適切な説明を行うべきです。
((3)その他の方法
ペプシノゲン法、ヘリコバクター・ピロリ抗体、これらの併用法は利益(死亡率減少効果)が不明なことから、対策型検診としての実施は推奨しません。任意型検診として実施する場合には、死亡率減少効果が不明であることと不利益について適切な説明を行うべきです。
(出典「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」2014年版)




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                2015.12.23 撮影