過剰診断・前立腺がんでも
がん検診の目的はがんによる死亡を減らすことであって、早期発見そのものではない。
韓国や福島での「甲状腺検診」は見つけなくても良い「無実」の甲状腺がんの発見を増やすだけで、プラスよりマイナスの方が上まわる可能性がある。
高齢男性に多い前立腺がんでも、この「過剰診断」が問題となる。
8月の国立がん研究センターの発表によると、がん全体の5年生存率は66.1%だった。臓器別では、前立腺がんが98.6%で最も高く、膵臓がんは9.6%と最低だった。
前立腺がんについては、最も早期のステージーから手術が難しいステージ3まで、いずれの5年生存率も100%だった。
10年生存率も全体で95.7%に達する。
不治の病どころか、ほとんど「不死の病」と言える。
わずかな例外を除き、前立腺がんで命を落とすことはまれだから、早期発見が無駄になる場合が多くなる。
実際、腫瘍マーカー「PSA」による前立腺がんの検診の利益と不利益は以下のように見積もられている。
受診者1000人中、検診により前立腺がん死亡を回避できるのは1人。
一方、受診者1000人中、30~40人に治療により勃起障害や排尿障害が発生。
2人に重篤な心血管障害が発生。
1000人中0.3人が治療の合併症により死亡。
過剰な治療を避けるため、早期で、タチの悪くない前立腺がんに対しては、「監視療法」が国際的な「標準治療」として確立している。
「療法」という名前がついているが、実際には治療は実施せず、慎重に経過を観察する。
3~6ヵ月ごとの直腸からの触診とPSA検査および1~3年ごとの前立腺生検を行い、病状悪化の兆しがなければ、監視を続ける。
最近は生検を避けて、MRI検査で代用することもある。
欧米での大規模な研究でも、監視療法を採用した場合の10年生俘率は、手術や放射線治療と差がないことが分かっている。
ただし、前立腺がんによる死亡がゼロではないのもたしかだ。
本当に治療が必要な患者を選別できる簡便な検査法が見つかることが期待される。
執筆
東京大学病院・中川恵一准教授
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.11.20
<関連サイト>
75歳以上で上昇する前立腺がん死亡率
https://wellfrog4.exblog.jp/17000693/
NEJMがPSA検診特集
https://wellfrog4.exblog.jp/17141227/
牛乳摂取と進行性前立腺がん
https://wellfrog4.exblog.jp/17252777/
PSA検診最新データ論文の意義・問題点とは
https://wellfrog4.exblog.jp/17713425/