前立腺がん その3(3/3)

治療法を選ぶために大切なこと

がんと診断されて、それを告げられたらショックで落ち込むのは当然です。
これからの生活で不安なこともあるでしょうし、ご家族も心配なことでしょう。
しかし、前立腺がんは早期であれば完全に治すことができますし、進行したがんであっても、進行を遅らせる有効な治療法があります。

がんと診断された場合は、CT、MRI、骨シンチグラムなどの画像診断で、前立腺がんの広がりや転移の有無を調べます。
また、PSA値や前立腺針生検から得られたがんの悪性度なども参考にしながら、治療法を選ぶことになります。

病気の広がりに応じて様々な治療法があります。
専門医は、病気の進行度・年齢・他の重い合併症の有無などによって、あなたに適している治療法を提案します。

治療法を決めるにあたっては、それぞれの治療方法の特徴や合併症などを理解し、わからないことは専門医に相談し、自分自身にあった治療法を選ぶことが大切です。

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前立腺がんの手術について教えてください
がんが前立腺にとどまっている早期がんに対しては、前立腺と精のうをすべてとる根治的前立腺摘除術を行うことができます。
これは、がんを完全に治す可能性のある治療法の一つです。

手術にはへその下を縦に切開する恥骨後式と、肛門と陰のうの間を切開する経会陰式があり、手術には3~4時間かかります。
腹腔鏡を使用しモニターに映しだされた画像を見ながら行う腹腔鏡手術という方法もあり、切開する創が小さくてすむのがメリットですが、医師の高度な技術が必要とされます。
また、最近はロボットを用いた腹腔鏡手術も施設によっては行われています。

術後は尿道からカテーテルが挿入されますが、1週間ほどで抜くことができます。
術後には多少の尿もれがおこりますが、多くの場合、時間の経過とともに消失します。

通常、手術中の出血に対応するために、事前に自分の血液(自己血)を用意します。
自己血を用意しておけば、他の人の血液を輸血することはほとんどありません。

主な合併症は、勃起障害と尿もれで、重篤な合併症は極めてまれです。

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放射線療法について教えてください
放射線療法とは、前立腺放射線を当て、がん細胞を殺す方法です。がんが前立腺に限局した早期がんに対して行うもので、手術とならんでがんを完全に治す可能性のある治療法の一つです。
また、前立腺の周囲に広がったがんに対しても、内分泌療法(ホルモン療法)と併用して放射線療法が行われます。

放射線療法には、体外から照射する方法(外照射療法)と、放射線を出す小さな線源を前立腺内に挿入する組織内照射療法があります。
外照射療法は、一般的に1日1回、週5回で7週間ほどの通院が必要になります。
最近は、高度な外照射療法として、合併症の少ない3次元原体照射、強度変調放射線照射(IMRT)ができる施設もあります。
組織内照射療法は、ヨウ素125密封小線源永久挿入療法(シード治療)とイリジウム192による高線量率組織内照射療法(HDR)があります。
シード治療では、線源は永久的に前立腺に残りますが、放射線の量は徐々に減り、1年後にはほとんどなくなります。
この治療は体への負担が小さく、短期の入院治療ですみますが、対象は比較的おとなしいタイプの限局がんの方がこの治療のよい適応です。
HDR前立腺の周囲に広がったがんに対しても有効性が証明されています。

放射線療法には尿の回数が増えたり、下痢や便に出血がおこるという副作用もありますが、通常程度は軽く、頻度もまれです。

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内分泌療法について教えてください
前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)の影響を受けて大きくなる性質があります。
そのため、体内の男性ホルモンを低下させたり、その作用を抑制し、がんの増殖を抑えようという治療法が内分泌療法です。

内分泌療法には、薬物療法と、男性ホルモンをつくる臓器である左右の精巣を摘除する両側精巣摘除術があります。薬物療法には精巣からの男性ホルモンの分泌を低下させる注射薬のLH-RHアゴニストと、男性ホルモンの作用を阻害する内服薬の抗アンドロゲン剤が使われ、しばしば同時に用いられます。

前立腺がんの進行の度合いにかかわらず、すべての患者さんが対象になる治療法で、手術療法や放射線療法と組み合わせて用いられることもあります。

内分泌療法は、一般的に転移がんであっても、数年間は病気を抑制できますが、時間の経過とともに効果が弱くなるという問題点があります。
主な合併症は、勃起障害、骨粗鬆症、体のほてり、発汗、筋力低下などですが、重篤な合併症は極めてまれです。

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PSA監視療法(無治療経過観察)について教えてください
がんの悪性度が低く、PSA値が低く、直腸診や生検の結果からもがんの広がりが小さいと判断された場合は、PSA監視療法を治療選択肢の一つとして、専門医より提案されることがあります。

前立腺がんは、高齢者に多く、一般的に進行が遅いものも多いため、PSA検査によって命に影響を与えないようなおとなしいがんが発見されることがあります。
そのようながんに対して治療を行った場合は、それによる体への負担が大きくなり、生活の質を落とす恐れがありますので(過剰治療)、PSA監視療法が重要な選択肢の一つになります。

PSA監視療法は、がんが前立腺の中にとどまっており、がんの悪性度が高くなく、性質がおとなしいと予測される方を対象にする治療法です。

経過観察中は、PSAを定期的に測定しますが、もし、PSAの増加速度が速くなった場合には、手術・放射線療法などへの治療方針の変更が行われます。

PSA監視療法によって、治療を行わずに経過をみる、あるいは結果的に治療の開始を先延ばしすることによる危険性はそれほど高くないのですが、一部のがんは診断時の予測よりも速く病勢が進行することがありますので、経過観察中にはPSAの定期的な測定以外に、前立腺生検を行うことが勧められます。

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【監修】九州大学病院 泌尿器科 教授  内藤 誠二先生
【協力】群馬大学病院 泌尿器科 准教授 伊藤 一人先生

出典
ブルークローバー・キャンペーン
http://www.blueclover2011.jp/about/

<私的コメント>
前立腺がんについて、ここまでわかりやすくかつ詳しく説明したサイトはなかなかありません。
当院でも患者さんへの説明に活用していくつもりです。


<関連サイト>
前立腺がん その1(1/3)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/08/10







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2011.8.21 撮影 大阪梅田駅前にて 午前9時30分

他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
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があります。