膵臓がん治療は手術前から

       

膵臓がん治療 手術前から 抗がん剤放射線 効果高める

毎年3万人以上が死亡する膵臓がん。

診断と治療が難しく、部位別では肺、大腸などに次ぎ、4番目に亡くなる人が多い。

公開データを基にした日本経済新聞の実力病院調査では、手術の前に抗がん剤放射線照射を使って治療効果を高めるなどの取り組みが目立った。

早期発見や治療法の改善に向けた取り組みも進んでいる。

 

膵臓は胃の後ろにある長さ約20センチメートルの細長い臓器。

食物の消化を助ける消化酵素や血糖値を調整するホルモンを分泌する。

胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓などに囲まれ、がんを見つけるのが難しく、進行した状態で見つかることが多い。

 

大阪国際がんセンター(大阪市)は2017年度の「手術あり」が全国1位の360例。

がんが膵臓の内部にとどまる状態のステージ1から、がんが腹腔の動脈などへ及ぶ3期の一部で手術で、切除する治療を選択している。

 

現在の治療で根治を目指すためにはがんの切除が必要だが、患者の8割は見つかった段階で3~4期に進行している。

手術ができる可能性があるのは患者全体の35%程度。

手術はがんの位置によって胃や十二指腸などの一部も合わせて切除する。

患者の体力を低下させないように、できるだけ周辺の臓器は残す。

 

同センターでは1期の患者はまず手術でがんを切除し、肝臓への転移を防ぐために「5-FU」を肝臓に近い動脈や静脈に点滴で投与。

その後に半年~1年をかけて「TS-1」を外来で処方する。

 

2期と、一部の3期の患者は、基本的に手術前に放射線照射と抗がん剤でがんをたたく治療法を使い、その後に手術をする。

まず「ゲムシタビン」と「アブラキサン」という2種類の抗がん剤を2カ月使う。

その次に、この2剤と放射線照射を5週間併用する。

 

同センターでは、放射線照射はコンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した腫瘍の形に合わせて放射線を当てる「強度変調放射線治療(IMRT)」という最新の手法を採用。

 

膵臓がんの部位だけでなく、再発しやすい周辺の神経組織も強い放射線を当てる。

この神経組織は腸の動きを制御する。

かつては手術で切除していたが、ひどい下痢になる。

16年ころから手術前に強い放射線を当ててがんを再発しにくくしたうえで残すようにした。

患者の生活の質を改善できるのに加えて体力低下を防ぎ、術後の化学療法を十分に施せる利点もある。

手術後は1期と同じ抗がん剤の治療をする。

 

この手法は治療後4年半の時点での生存率が65%。

5年生存率に換算すれば60%程度と見込んでいる。

従来の治療法の2倍にあたる。

今後、患者数が増えれば生存率は下振れする可能性があるが、従来の治療法を上回るのはほぼ確実だ。

 

「手術あり」が全国4番目の311例だった国立がん研究センター中央病院(東京・中央)でも、今春から1期と2期の一部患者の手術前に、ゲムシタビンとTS-1を併用する治療を始めた。

2期と3期の一部患者は、手術前にTS-1などの4種類の抗がん剤を併用する臨床試験を実施している。

 

一方、3期の一部とがんの遠隔転移がある4期の患者は抗がん剤治療が中心。

かつてはゲムシタビンだけで治療していたが、最近は初回の治療で使う抗がん剤の種類が増えた。

 

大阪国際がんセンターでは、ゲムシタビンとアブラキサンを併用するか、「オキサリプラチン」や「5-FU」などの4剤を併用する治療法を使う。

前者は効果が早く出て、がんが小さくなりやすいが、脱毛が多い。

後者は脱毛が起きにくく、フランスでの臨床試験では高い効果を発揮した。

 

日本でも両者の効果を比べる臨床試験が進んでいる。

結果が出れば、長所と短所を医師や患者が考えて最適な手法を選ぶのに役立つ。

 

早期発見へ 模索続く

膵臓がんは早期発見が難しい。

政府は予算を投入して大学などが検出技術の開発を目指したが、実現できていない。

現在も大阪大学などが早期に見つかった患者の血液や唾液の成分を調べる研究を進めるなど、取り組みが続いている。

 

基礎研究では千葉県がんセンターががんから尿へ出るRNA(リボ核酸)の一種を目印に、膵臓がんを見つける技術を開発した。

13人の患者と健康な30人を対象にした実験では、7割強の精度で患者を見分けることができた。

実用化には9割の精度が必要とみており、複数の目印を組み合わせるなど改良する。

企業に働きかけ実用化を目指す。

私的コメント

がんの手術や抗がん療法は、生検による病理標本による診断が基本です。

前立腺がんの例を挙げると、PSAがいくら高くても前立腺生検で悪性細胞がみつからなければ治療はスタートしません。

しかし、膵臓の場合には生検が困難なため、こういったプロセスを踏まずに治療が開始されます。

「血液や唾液の成分による診断」や「尿へ出るRNAによる診断」の段階では、確定診断には至らないことが十分に考えられ、あくまでも補助的診断という立場(臨床的意義)になるのではないでしょうか。

  

発症リスクが高い人を選別する取り組みもある。

大阪国際がんセンターでは、膵嚢胞や膵管拡張などの膵臓の形の異常に注目している。

 

異常があると、年率1%の確率で膵臓がんを発症する。

同センターでは、膵臓近くにある胃を気体の溶け込みが少なく飲みやすいミルクティーで満たしてもらい、膵臓の形が超音波ではっきりと映るようにするユニークな検査法を取り入れている。

 

胃のあたりに痛みを感じたら、胃カメラだけでなく超音波や血液マーカーの検査も受けたい。

 

膵臓がんは背中に痛みが出る人もいる。

強い痛みではない場合が多いが、長く続く場合にはきちんと調べた方がよい。

このほかにも糖尿病の患者が膵臓がんになると、インスリンの分泌が減り、血糖値が上がることがある。

ささいな体調の変化に見えても、油断せずに医師に相談することが早期発見につながる。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2019.8.26