膵がん、術前療法広がる

膵がん、術前療法広がる 抗がん剤放射線で再発防ぐ狙い 診療科の連携がカギ


治療が難しいがんの代表とされる膵がん。
放射線抗がん剤を使ってから手術に臨む「術前化学放射線療法」に取り組む病院が増えている。
再発を抑えて元気な期間を少しでも延ばすのが目的だ。
複数の診療科が連携し、治療手段の総力をあげてがんに挑む手法だ。

■膵がんで亡くなる人は年に約2万9千人。
早期発見が難しく、手術でがんを取り去れたと思っても、膵臓の周囲で再発したり、別の場所に転移してしまったりすることが多く、治療成績は全般によくない。
 
■術前化学放射線療法は再発が起きやすい場所にあらかじめ放射線をあて、検査では見えないが、散らばっているかも知れない小さながん細胞を抗がん剤でたたいて、再発などのリスクを減らしたうえで手術に臨もうという手法だ。
 
■具体例(1例)は、週末をのぞく毎日、5週間で計25回放射線をあて、4週間に3回の割合で計9回抗がん剤を点滴するのが基本だ。
計3カ月ほどかかる。
がんの進展が手術できるぎりぎりの段階までにとどまっている人が対象だ。
 
■副作用で食欲などが落ちるおそれもある。
肝臓への転移を防ぐため、手術後には近くの血管を通して直接、肝臓に抗がん剤を注入する。
この療法を受けた患者が5年後に生存している確率は進行度や医療施設にもよるが50%前後で、単純比較はできないが、10~30%とされる全国の平均と比べて高い。
ただし、術前治療中に転移が見つかったりして、手術ができない人もいる。

有効性の調査始まる
■ただ、この手法の評価はまだ、定まっていない。
膵がんの標準的な治療では手術ができる人にはまず手術をし、抗がん剤を使う。
日本膵臓学会の指針はこの療法の有効性を判断していない。
条件をそろえて他の手法と比べる形の臨床研究の結果がないからだ。
 
■術前治療の副作用で、体が弱り、手術が受けられなくなるデメリットを指摘する声もある。
客観的なデータが足りない現状では、医師からよく説明を聞いたうえで、この手法を受けるかどうか判断する必要がある。
 
■今年、全国30近くの施設が参加してこの手法の安全性と有効性を調べる臨床研究が始まった。
(研究代表者 静岡県立静岡がんセンター・上坂克彦副院長)

<参考>
膵臓がん治療に尽力 静岡県立静岡がんセンター 上坂克彦さん
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20130529152933401

膵臓がんの治療で1月に発表された国内の臨床試験の報告が、世界から注目されている。
手術後の再発を防ぐため6カ月、従来の標準的な抗がん剤を投与した場合と、経口抗がん剤「S-1(エスワン)」を投与した場合で比較した結果、S-1の手術2年後の生存率は70%と従来の薬より17ポイント高かった。

■なかなか救えないのが、膵臓がんの患者だ。
早期発見が難しく、治癒の見込める手術にたどり着ける患者が2~3割。
手術しても転移などで再発しやすいのが特徴で、術後5年時点の生存率は、5年ほど前まで1割といわれていた。

抗がん剤の補助療法で再発率が下がり、5年生存率が2割に上がると分かったが、さらに上げられないかと取り組んだのが今回の研究。
全国の病院に呼び掛けて、300を超える症例数を確保し、世界を納得させた。

■研究は継続中。「5年生存率が40%になる可能性がある。自分が生きているうちに、まさかそんな時代が来るなんて。次の目標は50%。そういう時代になんとかしたい」

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出典 朝日新聞・デジタル 2013.7.23
版権 朝日新聞社




<私的コメント>
当院でも最近、術後膵がんで亡くなられた方を経験しました。
術前の化学療法はされていなかったようですが、術後の化学療法では随分苦しまれて結局は亡くなられました。
ドクターでしたので、より思い出深い患者さんです。
化学療法についても相談を随分受けました。
余命をどのように過ごすのか、化学療法を行っての(わずかな)寿命の延長にどれだけの意味があるのか。
完治はありうるのか。
5年生存率が化学療法で延長した場合、患者さんは余命期間を快適に過ごせたのか。
また、5年以降の予後はどうだったのか。

医師の7割は、自分がガンにかかったら抗がん剤は使わないというアンケートもあります。
しかしそう回答した医師も、実際わが身にに降り掛かって来た場合には考えが変わるかも知れません。